同じ純米酢でも製造元により酸味が違うのはなぜですか?
今回は、ご購入後のアンケートでいただいたご質問にお答えします。ご質問ありがとうございます!とても嬉しいです。
Q.同じ純米酢でも製造元により酸味が違うのはなぜですか?
A.製造元によって、酢酸の量、有機酸の量に違いがあるからです。酸味は、酢酸のほか、クエン酸やコハク酸などの有機酸が相互に影響し合って形成されます。とくに、有機酸は少量であっても酸味に大きな影響を与えます。
同じ純米酢ということは、原材料は同じお米ですね。では、なぜ、その違いが生まれるのかという話をしたいと思います。
①原材料の米の違い
米の産地や品種の違いも影響しますが、もっとも大きな違いは、米の使用量ではないかと思います。とば屋の純米酢「壺之酢」は、JAS規格で決められている原料米の4倍ものお米を使用しています。
使用する米の量が多いほど、原料由来の乳酸やアミノ酸、クエン酸、コハク酸などが多く含まれます。その分、まろやかな酸味のある純米酢になります。しかし、多ければ多いほど良いというわけではありません。米の量を多くすればするほど、コストが上がります。
また、料理をしていると、軽い酸味が欲しいときもあれば、コクや深みのある酸味が欲しいときもあります。その時々に合わせたお酢を選んでいただくことが大切だと思っております。
②米麴と甘酒の違い
とば屋のお酢の美味しさの秘密のひとつは、手作りでつくる米麹にあります。コウジ菌を繁殖させて3日間にわたって温度を徹底管理して作ります。そして、酵素と栄養素が豊富な自家製米麴と蒸した米を混ぜてつくる、手仕込みの甘酒。
この甘酒を濾過せずにそのまま壺に入れるのが、とば屋の伝統製法です。甘酒仕込みは米酢造り本来の古来製法といわれています。他の米酢屋さんがやっていない、とば屋の伝統的な仕込み方法です。
③製法の違い
お酢の製法はいくつかありますが、大きくわけると2つ。昔ながらの製法である「静置発酵法(せいちはっこうほう)」と、大量生産のために開発された「連続法・通気法」です。静置発酵法は、数か月かけて自然の力で酢酸発酵させますが、通気法では、強制的に空気を通気させて一週間以内に発酵を進めます。
静置発酵法は、発酵の期間が長く、じっくりと熟成するため、酸味に加えコクや旨みのあるお酢に仕上がります。通気法は、酸味がやや強く、淡白ですっきりした味に仕上がります。
④酢酸菌の違い
酢酸菌は、アルコールを酸化して酢酸をつくる細菌です。酢造りにおいて、とても重要な酢酸発酵をしてくれます。実は、酢酸菌は何種類も存在し、生態が研究されたり、分類されたりしています。酢酸菌の研究は、まだまだ明らかになっていないことがたくさんあります。種酢と呼ばれる私達のお酢を造りだす酢酸菌も単一の菌ではなく、複数種の酢酸菌などが含まれていることが分かっており、酢酸だけではない香りや酸味を醸し出す理由の一つだと考えています。
純米酢をつくっているような、昔ながらのお酢屋の酢酸菌の比較に取り組んだ研究(※1)もあります。この研究では、とば屋の種酢を提供しました。私たちの酢酸菌が、他とどう違って、どのように味の変化をもたらしているかは明らかではありませんが、いつかその秘密が分かればと期待しています。
※1:酢屋で継代培養されてきた酢酸菌の遺伝子比較, 農芸化学, 2019
⑤水の違い
お酢の原材料の大部分を占めるのが、水です。おそらくどの企業も、地下水を使っているでしょう。地下水は、その水が通る土壌や環境によって、ミネラル成分や硬度に違いが出ます。
水の性質は地域によって大きく異なるため、その違いが、純米酢の違いを生んでいる可能性は十分に考えられます。とば屋酢店のある福井県小浜市は、名水百選の「雲城水」のように地下水がいつも湧き出す自噴井戸が海岸のすぐ傍にある、地下水が豊かな土地です。(※参考:環境省選定 平成の名水百選 雲城水)
水の恵み、米の恵み、そして、御食国の食文化という背景があって、多くの方にご愛用いただき、300年続けてこられたのだろうと思います。
発酵の神秘「お酢」は生きた調味料
同じ純米酢でも製造元により酸味が違う理由について、考えられるものをご説明いたしました。この文章を書きながら感じたことは、お酢は発酵の神秘の結晶であり、生きた調味料であるということです。
私達の酢造りには、麹菌、酢酸菌の2つの菌の働きが必要です。菌の働きは目に見えず、ヒトが観測できないところで思わぬ変化をもたらしているのでしょう。また、原材料となる米も水も、天候や土壌など、人智を越えた自然の恵みに左右されるものです。
こうして、さまざまな自然の要素が絡み合って私たちの米酢ができていると思うと、奇跡のようなことだと思います。どうぞ、私たちの自慢の純米酢をお試しください。
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。