にごり酢の酢酸菌は生きているの?死んでいても効果があるの?

にごり酢について解説したところ、読者の方からご質問をいただきました。
「にごり酢の酢酸菌は生きていますか?」
結論からいうと、市販のにごり酢に含まれる酢酸菌は、加熱殺菌によって死滅しています。酢酸菌は、酸性の環境にはとても強いものの、熱には弱いため、食酢の品質を維持するための加熱殺菌や除菌処理で死滅してしまいます。これは、にごり酢に限らず、市販の食酢全般にいえることでもあります。
とはいえ、「死んだ菌なら役に立たないのか?」というと、そんなことはありません。酢酸菌による効果は、生菌でなくても期待できると考えられています。今回は、酢酸菌が死んでいる状態でも期待できる働きについて、詳しく解説します。
死んでいても効果がある?酢酸菌のLPS
酢酸菌の効果として注目されているのは、酢酸菌の細胞外膜に含まれているLPS(リポ多糖)という成分です。つまり、「生きている菌の働き」ではなく、「菌の体に含まれている成分」が重要なので、酢酸菌が死んでいても問題ありません。
LPSは、免疫細胞を活性化し、自然免疫の働きをサポートすると報告されています。自然免疫は、体内に侵入した異物を排除する仕組みで、人が生まれながらに備えている防御システムです。
LPSは、酢酸菌に限らず、野菜の皮や海藻、きのこなどさまざまな食品に含まれています。なかでも、酢酸菌入りの食酢である「にごり酢」は、LPSと酢酸を同時に摂取できるという、一石二鳥の健康食品です。にごり酢を日々の食生活に取り入れるには、飲むお酢として、少量ずつ毎日続けるのがおすすめです。

ここからは、少しマニアックな話に入ります。興味のある方は、ぜひ読み進めてみてください。
酢酸菌の耐熱性は?
酢酸菌の耐熱性は、菌の種類や環境によって異なるため、いくつかの報告があります。一般的には、酢酸菌が増殖する最適な温度は30〜35℃くらいで、約60℃で10分間加熱すると死滅すると報告されています。(※1)
ナタデココをつくることで知られる酢酸菌「Acetobacter xylinum (アセトバクター・キシリナム)」という仲間は、食酢の品質を損ねる可能性があるため、特に詳しく調べられています。以下の表は、食品衛生管理の一環として示されているHACCP関連データを参考にした「酢酸菌xylinumを殺菌するために必要な加熱条件」をまとめたものです。(※2)
殺菌温度 | 所要殺菌時間 |
---|---|
50℃ | 1分26秒 |
55℃ | 37秒 |
60℃ | 17秒 |
65℃ | 7.6秒 |
70℃ | 3.5秒 |
75℃ | 1.7秒 |
80℃ | 0.8秒 |
表からわかる通り、温度が高いほど、短時間で殺菌できます。市販の食酢は、ほとんどが、こうした条件を満たして加熱処理されているため、酢酸菌は死滅しているのです。
【参考文献】
※1:酢酸菌とその利用に関する研究, 柳田 藤治, 住江 金之, 日本釀造協會雜誌, 1975, 70 巻, 3 号, p. 185-191
※2:HACCP食酢製品の分類と危害のデータ
非加熱・低温殺菌のお酢であれば、酢酸菌は生きているの?
近年、市販品のなかにも、非加熱や低温殺菌で作られた食酢があります。そもそも発酵食品には、生きた菌が多く含まれているものも多く、人にとって有用な菌が生きて混入している状態に、とくに衛生的な問題はありません。さらに、食酢中はpHが低いため、他の腐敗菌が繁殖しづらい環境です。非加熱・低温殺菌であっても、食酢の衛生を保てる可能性があります。
しかし、たとえ低温殺菌であったとしても、市販の瓶詰めの食酢の中で、酢酸菌が長く生き続けるのは厳しいと考えています。なぜなら、瓶詰めされている状態では、酢酸菌の栄養源が少ないからです。
酢酸菌は、酸素とアルコール、糖などからエネルギーを獲得して生きています。しかも、酸素消費や栄養の要求量が比較的高い菌種です。瓶を密閉している状態では、新しい酸素や栄養は供給されません。エネルギー源が少ない状況で、酢酸菌が活発に生き続けるのは厳しいだろうと考えています。

お酢造りにおいても、酢酸菌を生きたまま、元気な状態で保ち続けるのは、非常に難しいことです。長年酢造りを続ける醸造所では、発酵中の食酢発酵液を『種酢』として、次の仕込みにすぐ使うことで、何年も自分たちの酢酸菌を守り続けています。
酢酸菌の休眠条件は?
酢酸菌を生きたまま、長期的に、安定的に保管するのは難しいですが、ミツカンさんによって、酢酸菌の活性を維持できる休眠状態で保存する技術が開発されています。この特許技術によれば、一定の薄さに希釈調整した酢酸菌含有液を、−20℃以下で凍結して保存することで、半年〜1年の保管が可能になるそうです。薄めるのがポイントというのは興味深いですよね。
このように、生きた酢酸菌を安定的に守ることは、自社の酢造りを守ることでもあります。私たち、とば屋酢店は、伝統的な『種酢』で酢酸菌を守り続けています。新しい技術で、長期的に酢酸菌を守り続けている醸造所もあります。どの会社も、自分たちの酢造りを守ろうと努力しています。
酢酸菌の価値が見直される中で、「生麹」のように「生酢酸菌」を手に入れたいという声もあるかもしれません。しかし、多くの醸造所は、自社の生きた酢酸菌を世に出すことに抵抗を持っています。それぞれの蔵や醸造所には、長年培ってきた酢酸菌があります。その生きた菌で作ったお酢こそが、いわば「自分たちの味」そのものなのです。
まずは、「生きた酢酸菌」にこだわるより、自分に合ったお酢を楽しむことをおすすめします。各醸造所の酢酸菌が作り上げた独自の風味や香りを楽しんでみてください。
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。