酢酸菌の体を構成するLPS(リポポリサッカライド)とは?

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酢酸菌の体を構成するLPS(リポポリサッカライド)とは?

酢酸菌は、アルコールから酢酸を生成する働きを持つ微生物で、健康をサポートするといわれる食酢の製造に欠かせない存在です。近年では、その「食酢をつくる能力」だけでなく、酢酸菌そのものの機能性が注目を集めています。

酢酸菌そのもの、すなわち、酢酸菌の体の成分です。たとえば、「レモンに含まれるビタミンCが私たちの体に影響を与える」という話と同じように、酢酸菌の細胞壁を構成する成分『LPS(リポ多糖、リポポリサッカライド)』が、私たちの体に影響を与えることが明らかになってきたのです。

この記事では、酢酸菌とLPSについて、わかりやすく解説します!

酢酸菌は、グラム陰性菌という「細菌」の仲間

酢酸菌は、目に見えない小さな生き物である「細菌」の仲間です。私たちの身の回りには、さまざまな細菌が存在しています。たとえば、ヨーグルトをつくる乳酸菌、納豆菌、腸内細菌のビフィズス菌が有名です。また、食中毒の原因となる大腸菌やサルモネラ菌。細菌には、人にとって有益なものもあれば、害をもたらすものもあります。

細菌とは?生物学的位置づけ

細菌は、ひとつの細胞で構成される『単細胞生物』です。生物の授業で学ぶ単細胞生物といえば、アメーバやゾウリムシ、ミカヅキモなどがあります。懐かしいですね。この単細胞生物は、さらに2つに分類されます。それは、細胞核をもたない『原核生物』と、細胞核をもつ『真核生物』です。

酢酸菌のような細菌は、『原核生物』に分類されます。乳酸菌や納豆菌、大腸菌も同様に、原核生物です。一方で、発酵食品をつくることで有名な麹菌や酵母菌は、細胞核を持っているため『真核生物』に分類されます。

原核生物真核生物
具体例乳酸菌、酢酸菌、納豆菌、大腸菌、根粒菌、シアノバクテリア(ラン藻類)など真菌類(麴カビ、きのこ、酵母)、アメーバ、クロレラ(緑藻類)など
特徴細胞核をもたない細胞核をもつ
模式図
トル様受容体(TLR)センサーとその認識成分例の図
真菌(真核生物)の身体の構造。核をもっている。植物の場合、細胞壁をもつ。

※参考文献:細菌とは何ですか?:農林水産省

細菌をさらに分ける~グラム陽性菌とグラム陰性菌の違い

原核生物に分類される細菌たちは、その体の構造から2つに分けられます。

  • 細菌の外側、表層部分が、分厚いペプチドグリカン層で覆われているタイプ(グラム陽性菌)
  • 細菌の外側、表層部分が、LPS(リポ多糖)を含んだ薄い二重の膜で覆われているタイプ(グラム陰性菌)

この違いは、細菌をグラム染色法という手法で染めたときの反応によって見分けることができるため、『グラム陽性菌』と『グラム陰性菌』と呼ばれます。紫色に染まる細菌が「陽性」、染まらない細菌が「陰性」です。同じ細菌の仲間であっても、グラム陽性菌とグラム陰性菌では、形質に違いがあるのです。

代表的なグラム陽性菌は、乳酸菌、納豆菌、ビフィズス菌、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌。グラム陰性菌は、酢酸菌、根粒菌、大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌、パントエア菌などがあります。いずれにしても、人間にとって有用なものもあれば、害をもたらす病原菌もあります。

グラム陽性菌グラム陰性菌
具体例乳酸菌
納豆菌
ビフィズス菌
黄色ブドウ球菌
肺炎球菌など
酢酸菌
根粒菌
大腸菌
サルモネラ菌
緑膿菌など
細胞表層の構造外側が、強固で分厚いペプチドグリカン層で覆われている外側が、LPS(リポ多糖)を含んだ薄い2重の膜で覆われている
模式図
グラム陽性菌の表層構造。外側が、強固で分厚いペプチドグリカン層で覆われている
グラム陰性菌の表層構造。外側が、LPS(リポ多糖)を含んだ薄い2重の膜で覆われている

ここまでを一度まとめましょう。酢酸菌は、グラム陰性菌という「細菌」の仲間です。そして、酢酸菌の機能性で注目されている成分は、グラム陰性菌の細胞壁の外膜に含まれる「LPS」なのです。

酢酸菌に限らず、大腸菌・サルモネラ菌・緑膿菌などの他のグラム陰性菌もLPSを持っています。しかし、食中毒につながるような細菌を積極的に摂取するわけにはいきません。人類にとって食経験をもつ酢酸菌は、有用で、健康に害のない稀少なグラム陰性菌です。そのため、酢酸菌由来のLPSであれば、安心して摂取することができるのです。

『LPS』が免疫細胞を活性化する

LPSは、自然免疫を担当する免疫細胞(マクロファージや樹状細胞など)を活性化させます。ヒトの免疫細胞には、10種類の『TLR(トル様受容体)』という異物発見センサーが存在しており、各センサーは特定の成分に対して反応し、免疫細胞を活性化させます。LPSは、このセンサーのうち、4番目のセンサー(TLR4)を反応させます。

トル様受容体(TLR)センサーとその認識成分例の図
13代目

乳酸菌やビフィズス菌などのグラム陽性菌は、2番目のセンサー(TLR2)を介して、免疫細胞を活性化させます

自然免疫細胞のTLRセンサーは、体内に侵入してきた細菌やウイルスなどの病原体を検知する、最初の防御システムです。TLRが病原体由来物質を認識すると、免疫細胞が、その病原体に適した方法で対応します。

LPSによる免疫細胞の活性化は、本来、腸菌やサルモネラ菌などの食中毒菌を処置するための仕組みです。これらの害のある細菌に免疫が適切に反応できるように、LPSが重要な役割を果たしています。

ここで注目すべきは、酢酸菌がもつLPSです。酢酸菌は、人間にとって有用で安全なグラム陰性菌であり、そのLPSは免疫細胞のセンサーをゆるやかに刺激します。害のないLPSを摂取することで、免疫細胞をゆるやかに活性化することができるのです。

※参考文献:
自然免疫の役割を発見|ライフサイエンス|事業成果|国立研究開発法人 科学技術振興機構
2011年のノーベル賞、何がすごい?(TLRと樹状細胞) | 阪大微研のやわらかサイエンス 感染症と免疫のQ&A

まとめ:グラム陰性菌は自然界にいる

LPSをもつグラム陰性菌は、自然界の湿った環境を好んで生息しています。田畑や森林、土壌といった自然環境に多く存在し、私たちはこれらを日常的に、食料と同時に、無意識に摂取してきました。

しかし、現代の衛生環境が整備されたことで、自然からの細菌成分LPSの摂取量が減っていると考えられています。LPSの働きが科学的に明らかになりつつある今、あらためて、意識的に摂取することを検討してみてはいかがでしょうか。

中野 貴之

中野 貴之

酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目

「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。

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