おせちで定番のお酢料理~紅白なますや蓮根・かぶの酢漬けなど
お正月を華やかに彩る「おせち料理」は、もともと三が日の食事をまかなうための保存食としての側面があったため、長持ちしやすい食材や調理法が取り入れられています。甘辛く炒る田作り、煮汁に漬け込む黒豆、お酢を使った紅白なますや甘酢漬け。いずれも、保存に適した工夫や知恵の詰まった料理です。
お酢をおせち料理に取り入れることで、次のような効果が期待できます。
- 抗菌作用による保存性の向上
- 食材の見た目を白く、美しく保つ効果
- 塩分の濃い料理に対し、お酢の酸味で味全体のバランスを調和させる効果
この記事では、おせちに含まれるお酢を使った料理について、その由来・意味、背景にある「お酢」の役割をご紹介します。
紅白なます
紅白なますは、大根とにんじんを千切りにして、甘酢に漬けこんだ酢の物です。にんじんの紅と、だいこんの白の色合いがまさに『紅白』で、祝い事に用いる水引を表す、縁起の良い料理とされています。また、にんじん・だいこんといった『ん』のつく材料を使うことで、『運がつく』ともいわれています。
おせち料理は生野菜が少ないため、フレッシュさを感じられる一品。箸休めとしてもおすすめです。柚子の皮を入れ物にすると、一段と華やかさが増します。甘酢漬けなので、保存性が高く、冷蔵庫で1週間ほど保存可能です。大根とにんじんをしっかり塩で馴染ませて、水分をしっかり絞るのがポイントです。野菜の水気で甘酢が薄まらないようにしましょう!
酢れんこん
酢れんこんは、輪切りにしたれんこんを甘酢に漬けたものです。れんこんは、たくさんあいた穴から向こうが見える事から「未来の見通しが良い」とされています。また、れんこんも、なますのにんじん・大根同様に、『ん』がつく材料で縁起が良いとされています。
れんこんを薄切りにしたあと、5分ほど酢水にさらすことで、アクを抜きます。また、れんこんを茹でるときにも、茹で湯にも酢を少し入れます。酢を使うことで、れんこんを白く仕上げることができます。ザルにあけ、熱いうちに甘酢に漬けます。輪切りのタカノツメを入れると、ピリ辛になって美味しいです。甘酢漬けは日持ちするので、ふたをして冷蔵庫保存で、4〜5日は可能です。
たたきごぼう
たたきごぼうは、ごぼうを茹でて叩き、酢とごまで和えた酢の物です。ごぼうは、「地中に深く根を張る」ので、家族や生業が、その土地にしっかり根を張り、安泰になることを願います。ごぼうの繊維を叩いて潰すことで、味を染み込みやすくするのがポイントです。酢、砂糖、醤油、ごまを合わせた調味料で和えます。
たたきごぼうにおけるお酢の役割は、茹で湯に酢を少し入れて、アクを抜くこと。そして、ごまダレ味のバランスを調えることにあると思います。ごぼうとごま酢は、相性がとても良いです。たっぷりごまを使って、ちょっと甘めに仕上げるのがおすすめです。酢の物ですので、日持ちも十分です。冷蔵庫で1週間、保存できます。
菊花かぶ(きっかかぶ)
菊花かぶは、かぶらに花のような切り込みを入れ(菊花切り)、甘酢に漬けたものです。菊は、日本の国花ですし、花が長く咲き続けてくれるので、長寿の象徴ともされています。切るのは大変ですが、花のように広げ、中央に輪切り唐辛子を盛りつけると、歓声が上がるほど喜んでもらえるので、作り甲斐のある一品です。
赤かぶを使った菊花かぶもおすすめです!赤かぶの皮に多く含まれているアントシアニン天然色素は、酸性条件下で鮮やかな赤色に発色します。そのため、お酢に漬け込むと、かぶの中まで赤く染まります。白かぶと赤かぶの両方を使って紅白にしたり、赤白一緒に漬け込んでピンク色に染めるのも可愛くて、ご馳走感が上がります。甘酢に漬け込んだ状態であれば、冷蔵庫で1週間保存可能です。
氷頭なます(ひずなます)
岩手県をはじめ、北海道・東北地方の郷土料理である氷頭なます。氷頭は、鮭の頭の軟骨のことで、コリコリした歯ごたえが美味しい珍味です。氷頭自体、お酢にしっかり漬け込むことで柔らかくして作ります。もともと酸味のある食材なので、大根やにんじんなどと一緒に三杯酢で和えて、なますにしてお正月に食します。
千枚漬
おせちの定番というわけではありませんが、京都のお正月では、冬の味覚である「千枚漬」が重宝されます。昔は乳酸発酵で作っていたそうですが、現在ではお酢で漬けるのが主流となっています。甘酢が美味しいので、箸休めと言いながら、ポリポリ食べてしまいます。
とば屋酢店でも、冬限定のお漬物「千枚かぶら」を販売しています。この季節だけの味を、どうぞお楽しみください。最近では、スモークサーモンや生ハムを巻いてオードブルの一品とするのもおすすめです。紅白で見た目が良いですね。
お酢は殺菌・抗菌効果が高く、料理の保存性を高める頼もしい調味料です。しかし、酸味が強すぎると食べにくく感じる方も少なくありません。今は冷蔵庫がある時代ですので、保存の必要性がさほど高くない場合は、酢の量を控えめにして甘味を増やすと、まろやかに仕上げることができます。お酢の酸味を上手に生かして、美味しいお正月をお過ごしください。
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。