里芋を調理する時の、お酢の便利な使い方
11月になり、里芋の美味しい季節がやってきました。里芋の旬は秋から冬にかけて。ねっとりホクホクとした食感と、優しい甘さは、じゃがいもやサツマイモなどの他の芋類とはまた一味違う魅力ですね。
里芋は芋煮鍋の主役です。他にも、けんちん汁、いも炊き、煮っころがしなど、各地の郷土料理でも活躍しています。また、おせち料理にも使われる縁起の良い野菜です。今回は、里芋を調理する際に役立つお酢の使い方をご紹介します。
里芋のぬめり取りには、酢を入れて下茹で
生の里芋の皮を剥こうとすると、ぬるぬるして滑ったり、包丁に皮が張り付いてしまうことがあります。この里芋特有のぬめり成分は、ガラクタン、グルコマンナン、アラビノガラクタンといった水溶性食物繊維です。
食物繊維は、腸のはたらきを整えるなど、身体に嬉しい効果が期待できる栄養素。できれば、そのまま摂取したいものの、調理をする上では扱いにくいことも。ぬめりがあると、包丁が滑りやすくなったり、ゆで汁にぬめり成分が溶け出して、煮汁が濁ったりします。
皮をむいた生の里芋のぬめりを取る方法は、3つあります。
- キッチンペーパーで拭き取る。
- 塩を揉み込んで、下茹でする。(目安:里芋6個で塩大さじ2)
- 酢を入れて、下茹でする。(目安:お湯1Lに、酢大さじ1)
下茹で時間は5分程度です。なお、塩や酢を入れて下茹でしても、ぬめり成分が完全になくなるわけではありません。表面付近のぬめりが湯に溶け出しただけで、芋の内部の粘り気は残っています。
里芋のぬめりを予防する方法
里芋のぬめり成分は水に反応しやすいので、まずは乾燥が重要です。土やひげ根を洗い落した後、キッチンペーパーでしっかり水気を拭き取って、乾燥させてから、下処理をしましょう。また、作業中も手や包丁についた粘りを洗い落した後、水気をこまめに拭き取ることで、ぬめりを最小限に抑えられます。
里芋の皮むきは、
①真ん中に一周、ぐるりと切り込みを入れる
②ラップをかけて電子レンジで加熱する
③熱いうちに布巾の上から皮をつまむと、8割くらいつるんと剥ける(火傷に注意!)
④残った皮を包丁でむく
というやり方が一番簡単です。
しかし、このやり方は、里芋の自然な形に従うので、でこぼこになりがちです。おせち料理などで見た目を整えたい場合は、生のまま六方むきすることも多いでしょう。扱いづらいと感じたら酢水でのぬめり取りを、ぜひ試してみてください。
里芋の処理で手がかゆくなったら、酢水で洗って
里芋を素手で触ると、手がかゆくなることがあります。これは、里芋に含まれる「シュウ酸カルシウム」という針状の結晶が原因です。シュウ酸カルシウムは、里芋を食べたときに舌や喉を刺激して「えぐ味」を感じさせる成分でもあります。加熱することで、シュウ酸カルシウム結晶は溶け出します。茹でこぼすことで、ぬめりとえぐ味を和らげることができます。
もし、調理中に手がかゆくなったら、酢水(洗い酢)を使いましょう。水とお酢を1:1で混ぜたものを用意し、かゆみを感じた部分を浸します。このお酢は、調理後に捨ててしまうものなので最安値のお酢で十分です。食酢の酸という性質を使ったものですので、レモン汁やクエン酸で代用してもOKです。
手がかゆくなる原理
シュウ酸カルシウム結晶が手のかゆみを引き起こすメカニズムは諸説あります。
大きくは以下の2つの説が考えられています。
- 物理的刺激:針状の結晶が皮膚に刺さることによる刺激
- 化学的刺激:結晶に付着したタンパク質分解酵素が皮膚を刺激
パイナップルを食べたときに舌がピリピリする感じを引き起こすのが、タンパク質分解酵素です
実際には、シュウ酸カルシウム結晶は、食酢(約4.2%酢酸)程度の弱酸では溶けないそうです。しかし、手のチクチクした感じやかゆみは、酢水で洗うとやわらぎます。
さらに、酸性のお酢だけでなく、アルカリ性の重曹や石けんで洗うことでも、かゆみが抑えられるという文献もあります。
『手に炭酸水素ナトリウム(重曹)あるいは塩をつけるとかゆみがおさまる場合がある。』
河野友美 編. 新・食品事典. 5 (野菜・藻類). 真珠書院, 1992.1 【PC2-E9】
『皮膚に触れるとかゆみを覚えるが石けんやアンモニア水で洗えばよい。』
青葉高 [ほか]編. 園芸植物大事典. 小学館, 1994.4 【RB2-E93】
これらの記述から、pHが変わることで、タンパク質分解酵素が不活性となり、酵素の働きが抑制されたのではないかと考えられます。
試したことはないのですが、かゆくなった手を酢水につけた後、再び真水につけると、pHが戻り、かゆみが再発する可能性もあります。かゆみが落ち着いたら、物理的にしっかり洗い落とすことをおすすめします。
里芋のかゆみを防止する方法
かゆみを予防する最も効果的な方法は、手袋を着用することです。直接触れるのを避けることで、シュウ酸カルシウムの刺激を回避できます。
また、シュウ酸カルシウムは里芋の表面近くに多く含まれているため、厚めに皮をむくのも効果的です。さらに、皮をむく前に、表面の水気をしっかり拭きとり、イモの汁にできるだけ触れないようにすることで、かゆみのリスクを減らすことができます。
里芋を事前に酢をつけておいたり、手に酢をつけておくことも、かゆみを抑える効果はありますが、水分をしっかり拭きとらないと、逆にぬめりが増すことがあるため、ご注意ください。酢を上手に使って、里芋料理を気軽に楽しんでくださいね!
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。