大根おろしポン酢を極める

お酢を知ろう

大根おろしポン酢を極める

ポン酢×大根おろしの組み合わせは、特に、お鍋のつけダレの定番です。実は、大根の部位やおろし方次第で、その味わいが大きく変わることをご存じですか? この記事では、大根の特徴と、ポン酢と一緒に楽しむためのアドバイスをお届けします。

【4行でまとめ】

  • 美味しい大根おろしポン酢は、適度な辛さと繊維質のバランスが重要
  • 部位:下半分を使用し、おろした後に水気を軽く切る
  • おろし方:辛さを出すなら力強く直線的に。マイルドにするなら、ゆっくり円を描いておろす
  • 辛さが苦手な人は、大根の皮を厚めに剥いて、中心部だけを使う

美味しい大根おろしポン酢をつくるポイント

皆さんは、大根おろしポン酢に何を求めますか? 大根は、殺菌効果や抗酸化作用などの栄養効果が期待される食材ですが、ここでは、美味しさを追求するため、味という点だけで議論したいと思います。

私は、大根おろしポン酢の魅力は大きく2つあると考えています。
①大根おろしにポン酢をしっかり吸わせることで、ポン酢を立体的に食材にまとわせることができる
②大根おろしの辛みとポン酢の爽やかさの相乗効果で、こってりした料理をさっぱりいただくことができる

和風おろしとんかつ定食を想像してください。とんかつを覆いつくすくらい大根おろしをたっぷりのせて、ポン酢を吸わせ、大きな口でかぶりつきたいのです。サクサクの衣に大根おろしポン酢が絡んだとんかつは、揚げ物特有の脂っこさを見事に和らげ、さっぱりと食べられます。

要するに、美味しいおろしポン酢には、ポン酢を吸うだけの繊維質の量と、ポン酢に負けない適度な辛さが重要だと考えます。大根おろしは、ポン酢の味がぼやけないように水分を軽く切ってから使います。また、繊維質のボリュームがあり、辛みのある部位を選んで使うのがポイントです。

大根の部位による味の違い:上部はみずみずしく、下部は辛くて繊維が多い

大根の部位による味の違い

大根は、部位によって、辛さ・甘さ・水分量が異なります。葉っぱに近い上部は、みずみずしく、辛さはほとんどなく、サラダに適しています。下部は、水分が少なく、繊維質で、非常に辛いです。時には、辛さを越えて、苦みや舌に刺激を感じるほどです。真ん中の部分は、甘さ・辛さ・水分量・柔らかさのバランスが取れており、煮物やおでんの具にぴったりです。

下の写真は、実際にすりおろした大根です。同じ量をすりおろし、水分と繊維質に分けてみました。上部は水分が多く、繊維質が少ないため、大根おろしにするには多くすりおろす必要があります。一方、下部は繊維質が豊富で、少量ですりおろしても十分な量の大根おろしを確保することができます。

部位ごとに、すりおろしたときの大根おろしの繊維質の量の違い
部位水分量繊維辛さ
上部(葉っぱ付近・青首)多い少ない辛みが弱い
真ん中
下部(ひげ根がある・白い)少ない多い辛みが強い

辛さについては、味見した結果を表にまとめています。下部の方が、明らかに辛味が強いです。一方で、甘さはあまり感じられませんでした。日本食品標準成分表(八訂)増補2023年によると、生の大根は94.6%は水分で、甘味成分となる糖質はわずか2.8%しか含まれていません。これが、辛さの方が際立った理由だと考えられます。

それでは、大根おろしの辛さについて、さらに詳しく見ていきましょう。

大根の辛味成分はイソチオシアネート

大根の辛味成分は「イソチオシアネート」というイオウ化合物です。これはアブラナ科植物に特有の成分で、わさびにも同じ成分が含まれています。

大根もわさびも、そのままでは辛さを感じませんが、すりおろすことで初めて辛味成分「イソチオシアネート」が生成されます。

大根では、グルコシノレート(辛子油配糖体)と、酵素ミロシナーゼという成分が反応して、イソチオシアネートが生成されます。これらの成分は、大根の中で別々の場所に存在するため、すりおろすまで反応はほとんど起こりません。大根をすりおろすことで、細胞が破壊され、グルコシノレートとミロシナーゼが接触し、イソチオシアネートがつくられます。

片割れである「酵素ミロシナーゼ」は、大根の皮に近い「形成層」に多く含まれているため、皮を厚めに剥くことで、辛さをを抑えることができます

大根を輪切り、縦切りにしたもの。辛味成分をつくる片割れであるミロシナーゼが多く含まれる形成層は皮付近(外側)

また、辛味成分は揮発性であるため、おろしてから時間が経つにつれ、辛味が抜けていきます。辛すぎて困ったときは、しばらく放置しておきましょう。

水で薄めても大根の辛さは変わりません。イソチオシアネートは熱に弱いため、レンジで数秒加熱することで辛味を和らげることができます。

おろし方の違い:直線的に力強くおろすと、辛くなる

大根のおろし方もまた、その味や食感に大きな影響を与えます。辛い大根おろしを作りたいときは、直線的に力強く、素早くおろします。細胞が細かく破壊され、辛みの強い大根おろしを作ることができます。逆に、辛みの弱いものを作りたい場合は、丸く円を描くようにゆっくりおろします。

おろし金の目が細かいほど、細胞が多く破壊され辛みが強く、ふわふわした食感になります。逆に、粗めにおろすとシャキシャキとした食感が残り、辛さはマイルドになります。自分好みの食感を見つけてみましょう!

季節による違い:秋冬だいこんは甘みが際立つ

大根は、ハウス栽培などで一年中流通しています。そのため、同じ大根といえど、季節によって、品種や産地が変われば味も大きく変わります。だいこんは大きく春だいこん、夏だいこん及び秋冬だいこんに区分されています。なかでも、秋冬だいこんは甘みが強く、みずみずしさが際立ちます。この甘さは、寒さで凍ることがないように、糖を蓄えようとするからです。大根の旬は冬、12〜2月です。

季節主な産地特徴
春・夏だいこん冷涼な気候の北海道や青森県、茨城県辛みが強くだいこん下ろしなど生食用に向いている
秋冬だいこん温暖な気候の神奈川県、千葉県、徳島県甘みが増しているので煮物やおでんなどに向いている

春だいこん、秋冬だいこんは温暖な気候の神奈川県、千葉県、徳島県などを中心に、夏だいこんは冷涼な気候の北海道や青森県などを中心に生産されています。

また、大根は、一般的な青首大根のほかに、聖護院だいこんや紅芯だいこん、地域独特の伝統品種もたくさんあります。福井県にも、ねずみ大根とよばれる辛味のよく効いた大根があります。この大根おろしの辛さは、鼻に抜けるような強い辛味が特徴です。

13代目

そばの産地で有名な福井県としては、大根おろしとつゆで食べる越前おろしそばも美味しいですね

季節や産地、品種による大根の違いを知り、それぞれの特徴を活かして大根おろしをつくるのも楽しいですよ!

大根おろしポン酢の奥深さ

大根おろしポン酢は、シンプルでありながらも奥深い一品です。季節ごとの大根の味わい、部位による甘さや辛さ、おろし方による食感の違いを理解し、楽しむことで、いつものお食事を一味違ったものにできるかもしれません。今冬、大根の違いにこだわった大根おろしポン酢で、美味しいお鍋を楽しんでみてはいかがでしょうか。

中野 貴之

中野 貴之

酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目

「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。

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