空腹時にお酢を飲んでも大丈夫?お酢と胃の関係
いつお酢を飲めばいいのか悩んでいる声をよく耳にします。とくに、食後の血糖値上昇を緩やかにする目的でお酢を摂取している方は、食事の直前、または、食事中に同時摂取すると良いです。食後では効果が薄れます。この話を伝えると、かならず疑問の声があがります。
Q.胃の中が空っぽ。空腹時にお酢を飲むと、胃に良くないのでは?
A.お酢を適切に希釈すれば、胃に対する影響はありません。むしろ、薄めたお酢などの軽い刺激を胃に与えることで、胃粘膜の防御機構を高めることができると考えられています。重要なのは、どの程度薄めるかということです。お使いの商品に合わせて、適切に薄めてください。※食酢を原液で飲むのは避けましょう。胃だけでなく、歯や喉、食道にも悪影響を及ぼす可能性があります。
この記事では、食酢の主成分酢酸と胃粘膜の関係について、皆さんの疑問を取り上げながら解説します。
酢酸よりも、胃酸の方が強い酸
胃は食べ物が入ってくるとその刺激をうけて胃酸を分泌します。通常は、胃の粘膜が胃の壁を保護しているので、胃酸で自分自身を傷つけてしまうことはありません。しかし、ストレスや暴飲暴食で胃酸が過剰に分泌されると、胃の粘膜で防御しきれずに、胃潰瘍などの不快な症状を引き起こすことがあります。胃酸の分泌と胃粘膜のバランスを崩さないことが重要です。
胃液の主成分の胃酸は塩酸(HCl)で、pH1の非常に強い酸性を示します。一方、食酢に含まれる酢酸は、同じ濃度でもpH3程度です。酢酸よりも、胃酸の方が強く、胃酸から胃を守っている胃粘膜が正常に機能していれば、酢酸が胃を傷つけることは少ないと考えられます。
しかし、もともと胃粘膜が少なめで胃が弱い体質の方や、ストレスや暴飲暴食でバランスが既に崩れてしまっている方は、食酢の酸によって胃に負担がかかることが考えられます。また、健康な方であっても、希釈が十分でなかったり、気づかないうちにメーカーの想定以上の酢酸を摂取してしまっていたりすることがあるようです。
【参考文献】
胃の中が強い酸性になる仕組み
お酢による胃痛を避けるために注意すること
お酢の健康効果が注目され、飲む酢ブームの盛り上がる一方、お酢による胃痛を訴える声も上がっています。胃痛の体験を読むと、以下の2つの点に注意が必要なようです。
- 食酢の薄め方が足りない
- 気づかないうちに大量に摂り過ぎている
食酢の薄め方が不十分で胃に負担がかかってしまうケース
飲む酢ドリンクは、多くの場合、希釈して飲むタイプのものが多いと思います。どれくらい希釈するかの目安は商品によって異なります。とば屋の飲む酢 お酢蜜は、4倍以上に希釈することを想定しています。百年のお酢蜜の場合、5倍以上に希釈するようお伝えしております。他社のお酢のなかには、10倍~20倍に薄めるように書いている商品もあります。
各メーカーの注意書き・目安量を必ず読んでから薄めるようにしましょう。一方、現実的な話として、毎日きちんと計量する方は少ないと思います。目分量で計ったときに、きちんと薄められているかどうかが重要です。対処法は2つあります。
- ①きちんと計量して、ストレートで飲める状態にしたものをペットボトル等の容器で作り置きする
- ②ギリギリを狙うのではなく、おおめに薄めるよう心がける
目分量で計って「今日はいつもより濃い」と感じたら、念のため、追加で水を飲んでおけば安心です。
気づかないうちに大量に摂り過ぎているケース
飲む酢の美味しさのあまり、いつの間にか大量に摂取してしまうことがあります。希釈するタイプよりも、ストレートで飲めるタイプの飲む酢ドリンクに起こりがちな問題のようです。
とくに、「ジュース感覚で飲める」という謳い文句で販売されている飲むお酢は、砂糖や甘味料をたくさん使って甘く仕上げてある場合が多く、本当にジュースのような感覚で飲むことができてしまいます。体に良いからと、水分補給の代わりに酢ドリンクを飲む方もいらっしゃるようです。また、同時に糖分なども多く摂ることになりますので、摂取カロリーも多くなってしまう点にも気をつけたいところです。
酢ドリンクは、甘さでマスキングしていても、酸性の液体であることは変わりません。一日中、酢酸が胃を刺激し続けていれば、胃に負担がかかります。酢の過剰摂取試験でも、食事のタイミングで試験飲料を飲むように設計されており、常時飲み続けることは想定されていません。
お酢を飲む習慣を身に付けるという点でも、食事と同じように、毎日決まったタイミングで酢ドリンクを摂取するのがおすすめです。
胃の粘膜を保護するお酢の機能
動物試験によると、薄めたお酢などの軽い刺激を胃に与えることで、胃粘膜の防御機構が高まることが報告されています。この研究では、1%に薄めた酢酸溶液1mlを経口投与することで、通常であれば胃潰瘍を引き起こすとされる塩酸+エタノールによる損傷が軽減されることが示されました。
この機能は、クエン酸では見られないため、酸によるものではなく、酢酸ならではの機能と考えられています。メカニズムとしては、胃粘膜防御系の賦活が酢酸によって生じていると推察されています。
この機能は、1%の酢酸溶液1mlを一回だけ摂取したような急性の場合でも、効果があるそうです。胃の負担が予想される飲み会が控えているときには、10倍程度に薄めた酢ドリンクを少量飲んでから臨むと、胃粘膜保護効果を期待できるかもしれません。
【参考文献】
急性および慢性的な希酢酸投与のラット胃粘膜に及ぼす影響-適応性胃粘膜保護作用の発現-, 河内 正二ほか, 薬理と治療, 2000
酢の機能と科学-酢酸菌研究会-朝倉書店【ISBN:9784254435436】
まとめ
空腹時にお酢を摂取する際、胃への影響が心配な方は、商品の指示以上にうすく、希釈するとよいでしょう。食酢大さじ1杯15mlを、50mlの水で薄めても、100mlの水で薄めても、全部飲み干してしまえば、酢酸摂取量は同量です。美味しさ・飲みやすさを維持しつつ、適切に薄めていただくとよいと思います。
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。