酢と油は混ざる?混ざらない?酢の乳化の不思議

お酢を知ろう

オリーブオイル

水と油が混ざらないのはよく知られていますが、「酢と油」の場合は少し異なります。実は、酢と油は『乳化』という現象を通じて、少しだけ混ざることができます。「少し」という点がポイントです。

乳化は、マヨネーズやドレッシング、化粧品、洗剤など身近なもので実際に活用されている重要な現象です。この記事では、お酢による『乳化』について、高校化学の範囲で、わかりやすく説明します。

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お酢と油が混ざらない理由

まず、なぜ食酢と油は混ざらないのか、その理由を実験しつつ、確認していきましょう。はじめは、食酢の基本から。

食酢は、酢酸(CH3COOH)が主成分の酢酸水溶液です。水に酢酸が数%溶けて、均一に混ざり合っています。つまり、食酢は、酢が溶けた水です。水に溶けていることからも分かるように、酢酸は親水性(水となかよし)です。

隣に、食酢に油を追加したものを用意しました。また、水と油を入れたものも並べています。比較してみましょう。どちらも油が上にある2層に分かれている様子が見て取れます。酢水と油を同じ容器に入れただけでは、混ざり合いません。

次に攪拌してみます。しっかり振ると白く濁り一時的に混ざりますが、しばらく経つと再び分離します。激しく振ることでできた小さな油の粒が一時的に酢水中に分散し、時間が経つにつれ、これらの油滴が再び結合し、二層に分離したというわけです。比重の重い酢水は下に、比重の軽い油は上に。水は水、油は油で集まります。

つまり、同じ性質をもった仲間は一緒に集まってまとまりやすい。逆に、性質が違いすぎる2つの物質を集めてきても、同じ物質同士で集まろうとするため、お互いに弾き合って混ざらないのです。お酢と油が混ざらない理由は、お酢と油の性質が違いすぎて、お互いにはじき合っているからです。

では、酢・水と油には、どんな性質の違いがあるのでしょうか。2つ違いがあります。

①極性の違い

水と酢酸は、どちらも「極性」をもつ分子です。これに対して、油は極性を持たない「無極性」分子です。極性とは、分子内の電気的な偏りのことで、偏りがあれば極性分子、偏りが無ければ無極性分子といいます。

極性分子と無極性分子のモデル図

分子内の電気的なバランスが偏るのは、分子の形が曲がっていたり、構成原子の電気陰性度が大きかったりするためです。例えば、水分子は折れ線形をしていますし、酢酸(CH3-COOH)の-COOH部分(カルボキシ基)は電気陰性度が高いため、どちらも極性をもちます。これらの極性分子は、水素結合という結びつきによって、互いに強く引き合います。

一方で、無極性の油分子は、分子同士でお互いに引き合う力はそこまで強くありません。油の分子構造は、電気的な偏りがないため、極性を持つ水や酢酸分子とは異なり、お互いにそこまで強く引き合わないのです。分子間の引力の違いによって、極性を持つ物質同士は互いに引き合いやすく、そうでないものは弾かれてしまうのです。

極性分子同士は混ざり、極性分子と無極性分子が混ざり合わない様子を比較したモデル図

②分子鎖長の違い

2つ目の性質の違いは、分子鎖長の違いです。簡単にいうと、水も酢酸も短いですが、油分子はとても長いのです。サラダ油などの植物油の主成分は、オレイン酸(C18H34O2)、リノール酸(C18H32O2)、α-リノレン酸(C18H30O2)などの不飽和脂肪酸です。これらは、炭素の数が14個以上の長鎖脂肪酸です。

オレイン酸は疎水基と親水基をもつ

実は、オレイン酸もリノール酸もリノレン酸も、酢酸と同じ-COOH(カルボキシ基)という構造を持っています。しかし、分子全体でみると極性をもたない部分の方が圧倒的に多いため、無極性の性質が強く出ます。こうした分子のサイズの違いも、水や酢と油が混ざりにくい一因です。

13代目

油分子の長い鎖状の構造のように、無極性で水に溶けにくい部分を、疎水基(親油基)といいます

ここで一度、酢水と油が混ざらない理由をまとめます。

  • 酢酸は水と同様に極性をもつ
  • 油は無極性分子
  • 極性分子同士で仲良く引き合うので、酢酸は水に溶けやすい
  • 酢や水と油は、性質が違いすぎるので、お互いに弾き合って、混ざらない

お酢と油、水と油を混ぜたときの違い

酢と油、そして水と油を混ぜ合わせた場合、一見するとどちらも混ざり合わないように見えます。しかし、実験を行うと興味深い違いが見えてきます。

強くかき混ぜると、すぐに全体が白く濁ります。これが「乳化状態」です。

30秒経つと水+油のグラデーションが見えてきました。1分経過すると、水+油は、薄い境界らしきラインが見え始めます。酢+油の方も、グラデーションが見えてきました。2分経過すると、水+油は、しっかり2層に分かれました。酢+油の方は、もとの位置より下の方に境界がつくられました。

40分くらい放置すると、違いがハッキリ見えてきました。水+油は攪拌した後、再び2層に分かれます。一方、酢+油は攪拌すると、ゆるやかに分離して3層に分かれます。舐めてみた結果、最上層は油、中層は酢と油が混ざった乳化層、最下層は酢水のようです。

この差異は、酢酸と水の分子構造による違いから生じます。

酢酸(CH3-COOH)は、水とよく混ざる親水基(-COOH)と、油と混ざる小さな疎水基(CH3-)の両方を持っています。攪拌により、水と油の間で仲立ちをし、一時的に乳化状態をつくり出しているのです。

乳化とは?

乳化とは、水と油のように本来は混ざり合わないものが均一に混ざり合う状態のことです。乳化状態にするための添加物を乳化剤といいます。

餃子のタレをつくるとき、醤油+ラー油にお酢を加えると、醤油とラー油が混ざりやすくなります。いわゆる「乳化剤」といわれるようなものほどの効果があるわけではありませんが、酢の親水部分と親油部分の両方を持っているため、酢醤油とラー油が一時的に乳化して、分離しにくくなるのです。

酢と油でつくるマヨネーズづくりの乳化剤は卵です

酢と油でつくる調味料といえば、ドレッシングとマヨネーズが思い浮かびます。これらの成分は自然には混ざり合わない組み合わせですが、攪拌によって一時的に混ぜることができます。しかし、時間が経つと再び分離してしまうため、長期間乳化状態を維持するためには、乳化剤の添加が不可欠です。

酢と油でつくるドレッシングは、食べる直前、使う直前に振って乳化させることが多いので、乳化状態を長時間維持する必要はありません。しかし、マヨネーズでは安定した乳化状態を維持するために強力な乳化剤が必要となります。その役割を果たすのが、卵黄に含まれるレシチンです。レシチンは、自然界にある優れた乳化剤の1つであり、酢や油だけではできない安定した乳化状態を実現します。

酢の乳化能力について

酢はレシチンのような安定性の高い乳化剤ではありません。酢と油だけでつくったマヨネーズでは、時間とともに成分が分離してしまうでしょう。また、酢を入れると油の粒子を小さく均一にしてくれるという説を耳にしますが、実際には、攪拌などによって小さくなった油の粒をしばらくの間、維持してくれる程度の効果と考えた方がよいでしょう。こってり料理に酢を入れたら必ず混ぜましょうね!

一時的とはいえ、酢には乳化させる力があります。乳化がもたらす独特のなめらかさ、舌触り、まろやかな味わいは、料理を奥深いものにしてくれます。この酢の特性を理解し、活用することで、皆さまの料理の風味や食感を豊かにすることに繋がれば幸いです。

中野 貴之

中野 貴之

酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目

「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。

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