福井県の名産『おぼろ昆布』の魅力に迫る
みなさん、こんにちは。2024年3月16日に北陸新幹線が福井県の敦賀駅まで開通します。これを記念して、福井の魅力を紹介する記事をシリーズでお届けします。第1弾は、福井が誇る名産品『おぼろ昆布』です!
福井県敦賀市が現在流通するおぼろ昆布の大半を生産していることをご存じでしょうか。実は、おぼろ昆布をつくるためには、お酢が欠かせません。地元福井のお酢屋の視点から、おぼろ昆布の魅力を深堀りします。
おぼろ昆布とは何か?
おぼろ昆布は、乾燥昆布を醸造酢に漬けてやわらかくした後、手作業で昆布の表面を薄く削り出してつくる加工食品です。最高級品は薄さがわずか0.01mmで、向こうが透けて見えるほど。口に入れると溶けるようにほぐれ、昆布のうま味と酢のかすかな酸味が広がります。
今でも手すきでつくられるおぼろ昆布
0.01mmという薄さに仕上げるおぼろ昆布は、機械での加工が難しく、現在でも職人が一枚一枚手作業で削っています。全国生産量の80%以上を福井県敦賀市でつくっており、まさに、敦賀を代表する特産品となっています。
手作業で削るからこそ、昆布の状態に合わせて、ひと掻きひと掻き調整することができます。職人さんは、シュッ、シュッと心地よい音を立てながら、軽快に掻いていきます。均一に薄く幅広い、薄絹のような美しいおぼろ昆布をつくるには、熟練の技が必要です。長い修行を経た職人の皆さんによって、伝統の技が脈々と受け継がれています。
おぼろ昆布ととろろ昆布の違い
おぼろ昆布とよく間違われやすい「とろろ昆布」は、おぼろ昆布から派生して誕生した別の商品です。何枚もの昆布をブロック状に固め機械で削り出してつくります。糸状に細く、もろもろしているのが特徴です。この違いは、後ほどご紹介する製造工程に着目することで理解が深まると思います。
敦賀と昆布のゆかり~なぜおぼろ昆布の一大産地なのか
和食に欠かせない昆布は、古くから薬や特権階級の食べ物として珍重されてきました。昆布の産地といえば、今も昔も北海道。古文書などの記録から、中世には北海道からの昆布が船で運ばれ、敦賀港で荷上げされていたことがわかっています。
なぜ、敦賀港だったのでしょうか。
敦賀は、京都に近く、琵琶湖のすぐ真北に位置しています。この地理的な特徴から、日本海海運と琵琶湖水運を結ぶ物流の中継地点として、古くから重要な港として栄えていました。なかでも昆布は、北海道から日本海を経て敦賀に運び込まれる重要な商品でした。
江戸時代になると、北前船交易が盛んになります。この頃、北海道から大阪へ運ぶ昆布の保存性を高めるため、酢につけてふやかす方法がとられたそうです。敦賀でおぼろ昆布やとろろ昆布などの昆布加工業が本格的に始まったのも江戸時代です。明治時代の終わりには、加工業者の数も増え、敦賀の主要産業の一つとなりました。
【参考文献】
・グラフふくい平成17年10月号 | 福井
・和食を支える「敦賀昆布ストーリー」創出・発信事業 | 文化庁
・おぼろ昆布(おぼろこんぶ) | にっぽん伝統食図鑑 | 農林水産省
おぼろ昆布の製造工程
①昆布を醸造酢に漬けて柔らかくする【漬け前】
原料の昆布を数分~10分程度、醸造酢に漬けて柔らかくします。漬ける時間は季節や天候、職人の技術によって異なるそうです。酢は昆布を柔らかくすると同時に、美味しさを引き出し、保存性をもたせてくれます。
海中でしなやかにたゆたう昆布には、アルギン酸カルシウムが多く含まれています。アルギン酸は、海藻特有のぬめり成分で、細胞間をゼリー状に充填しています。昆布を水につけると、このぬめり成分が外に出てきます。
お酢に昆布を浸すと、酢酸の作用でアルギン酸からカルシウムが離れやすくなります。カルシウムが酢に溶け出すことで、結果として、やわらかく、しなやかになります。
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②昆布の両端を切り落とす【耳裁ち】
昆布を削りやすいように両端(耳)を切り落とします。切り落とした端切れはとろろ昆布に利用されます。
③削る【昆布かき】
昆布を専用の包丁で削ります。包丁を持つ方の手(利き手)と同じ側の足で昆布の一方を踏み、反対側の手でもう一方をピンと引っ張りながら下から上へと削り上げます。
削りはじめの表面は黒っぽく、芯に近づくにつれ白くなります。削る場所や削り方によって、色や厚みが変わります。波状の模様が出ているものもあります。職人一人ひとりによる手作業だからこそ、ニーズに合わせて削り方を変えることができるのです。
④残った芯を切り揃える
最後に残った芯を規定の大きさに切りそろえます。この部分は主に、鯖寿司などの押し寿司(バッテラ)の上に乗せる昆布として使われます。また、各工程で出てくる切れ端や耳の部分は、集めてブロック状にして機械で削り、とろろ昆布になります。
「おぼろ昆布」に加工され、芯は「バッテラ昆布」となり、切れ端は「とろろ昆布」等に利用され、一片も余すことなく昆布を活用しきる。貴重な昆布を大切に使う昆布文化です。敦賀市のYOUTUBEで加工技術を動画で紹介しています。こちらもぜひ、ご覧になってください。
どんな食べ方がおすすめですか?
定番のおにぎり
塩むすびにおぼろ昆布を巻いて、お召し上がりください。シンプルですが、昆布の上品なうま味をそのまま感じることができます。
いつものお料理にプラス
いつものお料理に、ちょっと追加するだけでうま味がプラスされて美味しくなります。おかずがちょっと足りないという時にご飯に乗せたり、サラダや冷奴の風味付けにするのもおすすめです。
麺類のトッピングに
個人的なおすすめは、うどんやそばなど麺類のトッピング。お出汁をよく吸って、想像以上にボリュームアップします。旨みがギュッと感じられるので大満足です。
とば屋のお酢が使われた最高級おぼろ昆布『極みの逸品』おぼろ月夜
敦賀市内中心部に居を構える『敦賀昆布』さんでは、地元福井県のお酢としてとば屋のお酢を使った最高級おぼろ昆布を製造・販売しています。
敦賀のおぼろ昆布は、福井県昆布商工業協同組合が原材料などを一括に仕入れて、各昆布職人さんに支給されるそうです。敦賀昆布さんでは、地元福井の魅力を込めた商品をつくりたいということで、とば屋酢店のお酢を使った商品を特別品として開発してくださいました。
敦賀昆布さんは、伝統的な地場産業であるおぼろ昆布を守り、地域に貢献できる企業を目指すという理念のもと、手すき昆布職人を社員として雇用したり、昆布かき職人の実演や昆布かき体験などのサービスを通じて、昆布文化を身近に感じてもらう取り組みをされています。2020年に「現代の名工」に選ばれた手すき昆布職人の別所昭男さんも、敦賀昆布に所属しています。(※参考:現代の名工・手すき昆布職人・別所昭男さん – NIHONMONO)
敦賀市本町商店街にあるショップでは、とば屋のお酢・ポン酢も置いてくださっています。ありがたいです。
とば屋酢店のお酢を使ったおぼろ昆布。ぜひ、皆さんも手に取って、最高級の味わいをお試しいただければと思います!
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。