お酢以外もつくれる!?酢酸菌がかかわる意外な食品
酢酸菌は、食酢の主成分である酢酸をつくります。実は、食酢以外にも、酢酸菌の働きによって作られる食品があります。この記事では、酢酸菌が関与している、身近で意外な食品にスポットを当ててご紹介します。
ナタ・デ・ココ
ナタデココは、ココナッツの実から取り出した果汁に、酢酸菌の一種「ナタ菌(アセトバクター・キシリナム)」を加えて発酵させることで作ります。「ナタ」はスペイン語で皮膜、「ココ」はココナッツを意味し、「ココナッツの薄い皮膜」が名前の由来となっています。
ナタデココの主成分は酢酸菌がつくり出す食物繊維(セルロース)です。微生物がつくるセルロースは「バクテリアセルロース」と呼ばれ、植物由来のセルロースとは異なる特徴を持っています。
フィリピン発祥の発酵食品で、日本の寒天に似ていますが、プリッとしていてギュッと歯ごたえのある独特の食感が特徴です。平成初期に大流行して一躍有名になり、今でもヨーグルトと組み合わせた商品が販売されています。カロリーが低く、ダイエット食品や健康食品として親しまれています。
カスピ海ヨーグルト
カスピ海ヨーグルトは、ヨーロッパ東部のコーカサス地方のヨーグルトです。粘りがあり、酸味が控えめで、まろやかな味わいが特徴です。日本では2002年に大流行しました。比較的簡単に株分けして増やすことができることから、自家製ヨーグルトづくりに励む方もいます。
カスピ海ヨーグルトは、乳酸菌(クレモリス菌)と酢酸菌(アセトバクター菌)が共生して、つくられます。一般的なヨーグルトは、ブルガリア菌・ビフィズス菌などの乳酸菌によってつくられます。
参考文献:家庭で植え継がれたカスピ海ヨーグルト
紅茶キノコ
お茶に砂糖を入れて、酵母や酢酸菌などの微生物によって発酵させた健康飲料です。ナタデココと同じように、セルロース生成能力をもつ酢酸菌(アセトバクター・キシリナム)が関与しています。発酵させると液面にキノコのような塊ができることから、紅茶キノコと呼ばれるようになりました。日本では1975年に大流行しました。
NHKアーカイブスに紅茶キノコの発酵の様子を記録した動画があるので、ぜひ見てみてください。1975年のNHKニュースの映像ということなので、ニュースになるほどの異常なブームだったということでしょう。
紅茶キノコは、発酵ドリンクとして近年再注目されつつあります。英語表記は「kombucha」(コンブチャ)ですが、日本の「昆布茶」とはまったくの別物です。
カカオ豆
チョコレート作りには意外と知られていない重要なステップがあります。それは、カカオ豆の発酵です。原料のカカオの実が収穫された後、最初に行なわれる発酵工程は、チョコレート独特の風味や香りを生み出す重要な役割を担っています。カカオ豆の発酵にはさまざまな微生物が関わっています。
カカオの実を割ると、白い果肉(カカオパルプ)と種子(カカオ豆)が入っています。発酵の第一段階では、酵母や乳酸菌が活動を開始します。果肉に含まれる糖類をエタノールや乳酸に変換します。
つぎに、かき混ぜて酸素を送り込むことで、空気が好きな酢酸菌の増殖を促します。これらの酢酸菌は、先に酵母によって生成されたエタノールを酢酸に変える役割を担います。
約一週間で発酵が終わると、乾燥工程に入ります。そして、日本のような消費国へと出荷されるのです。この発酵と乾燥のプロセスを経て、カカオ豆はチョコレート特有の豊かな風味と香りを宿すのです。
参考文献:カカオ豆の発酵と微生物について
まとめ
酢酸菌は、お酢以外にも、様々な食品に風味や食感を与え、私たちの食生活を豊かにしてくれています。
酢酸菌は、自然界に広く存在しており、伝統的な発酵食品だけでなく、まだ人類が気づいていないような場所でも活動しているだろうと思います。まだまだ分からないことだらけの酢酸菌に興味を持つきっかけとなれば幸いです。
参考文献:好気呼吸による「発酵」を行う酢酸菌
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。