酢の醸造と酒税法について
お酢は、お米や果物などに含まれる糖分をアルコール発酵させた後、さらに酢酸発酵させて造ります。酢造りの過程で行なわれるアルコール発酵は、酒税法の対象行為となります。この記事では、酢造りと酒税法について、さまざまな視点でまとめました。
酒税法とは?
酒税法は、酒税やお酒の販売や製造に関する免許などについて定めた日本の法律です。お酒に関する税の歴史は古く、室町時代からありました。明治30年代には、国税の税収の第1位となったこともあります。酒税は、現在でも国家財政において重要な財源と考えられています。
酢造りとの関係において、重要な点を簡単にまとめます。
酒類の定義
酒税法の対象となる「酒類」とは、アルコール分1度以上の飲料のことです。これを製造する場合は、酒類製造免許が必要になります。酒類は、発泡性酒類、醸造酒類、蒸留酒類及び混成酒類の四種類です。
もろみの製造について
お酢の醸造の場合、第八条に書かれている「酒母又はもろみの製造免許」が必要です。酒母・もろみは、上記の4種類の酒分類には当てはまりませんが、アルコール度数は1度よりはるかに高く、酒税法上の「酒類」の対象となります。
※もろみとは、日本酒や醤油、酢などを作る工程において、原料が発酵してできる液体のことです。米酢造りの場合、原料の蒸し米に、酵母や麹、仕込み水を入れて造ります。また、お酒以外のものの原料として、もろみを使用する場合は、お酒として飲めないようにする処置(不可飲処置)を行う必要があります。(※参考:【酒類製造免許関係】|国税庁)
酢もろみのアルコール度数も高いです。最終製品がお酒でなくても、製造工程中にもろみを製造することになりますので、もろみの製造免許が必要になります。今はe-Taxで申請書を提出することができるようです。申請後は審査を経て、登録免許税(もろみ製造免許1件につき12万円)を納付する必要があります。ただし、申請すれば誰でも簡単に取れる免許ではなく、様々な基準や要件をクリアする必要があり、ハードルはとても高いです。
ちなみに、登録免許税というのは、酒税法ではなく、登録免許税法という法律で定められています。
酒税の納税義務者
お酒を製造した者が、製造場から移出させたお酒に対して、納税義務が発生します。また、お酒を引き取る際にも、引き取る者が税を納める必要があります。製造場で、その場で飲んだ場合も「お酒を引き取った」とみなされるので納税義務が発生します。
つまり、お酢造りの工程でアルコール発酵をさせるときは、できた酢もろみを飲んだり、搬出したり、販売したりしてはいけないということです。
原料から酢を自家醸造するのは酒税法の対象行為
ここまでの酒税法と酢造りの関係をまとめます。
- 酢造りの工程のアルコール発酵で造られる酢もろみは、アルコール度数が1度以上で酒税法の対象となる
- 原料をアルコール発酵をさせて酢もろみをつくるには、もろみ製造免許が必要
- つくった酢もろみを飲んだり、移動させたりしてはいけない
- つくった酢もろみはお酒として使えないように、種酢を添加するなどの処置をしなければいけない
お酢に税が課された時代
実は、お酢自体に課税されていた時代がかつてありました。
酢は、酒造税則によって、明治16年(1883年)に課税が始まりました。これは、酢が酒を醸造した後に作られるものであるため、酢を製造する過程で課税対象となる酒が作られる以上、酢にも課税すべきという考えに基づいています。酢への課税は、明治18年(1885年)に廃止されました。
料理の「さしすせそ」と税金(答え)|国税庁 (nta.go.jp)
明治時代、日清戦争(1894年)への緊張が高まる中、酒税は軍備拡張の財源として重宝されていました。当時はお酒だけでなく、醤油にも課税されたようです。
お酢の課税は、明治16年2月の酒税法令「自家用料酒免許鑑札」(※この記事のトップ画像)で、酒税免許税として課税の対象とされたのが始まりだと思われます。その後、2年間で廃止となりましたが、廃止にいたった経緯は調べてもわかりませんでした。
表:酒類税率および酒税執行機関の改正沿革|国税庁ホームページを加工して作成
酢造りを始めたい。どうすればいいの?
もろみの製造免許を取りましょう!国税庁のホームページでとても親切に解説しています。
酒税法違反にならないご家庭でできるお酢造り
酒税法の対象となるのは原料からアルコール発酵させる行為です。一方、市販のお酒を原材料にお酢を造る場合は、酒を造るわけではありませんので、酒税法の対象ではありません。どうしてもお酢造りを体験してみたいという場合は、市販のお酒を使ってみてはいかがでしょうか。
お酒を口の広い容器に入れて、種酢として市販のお酢を加えて放置します。お酢を加えることで、酢酸菌以外の菌が入り込む余地をできるだけ少なくすることができます。ゴミやほこりが入らないようにガーゼで口を覆い、30℃くらいの場所に放置しておきます。量にもよりますが、2〜3週間でお酢特有の酸っぱい匂いがしてくると思います。
材料とするお酒はなんでもよいのですが、あまりにもアルコール度数が高すぎると、酢酸菌が活動できませんので、5度くらいに水で薄めるとよいでしょう。お酒の数だけ、お酢の種類があるといわれています。酢酸発酵の基本は待つだけですので、ぜひチャレンジしてみてください。
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。