お酢の「体脂肪を減少させる効果」に切り込んだ研究論文を解説
食酢のさまざまな栄養効果のなかでも、特に注目されるのが「食酢の肥満への効果」です。この記事では、お酢が肥満に及ぼす影響について取り上げます。
『酢の摂取は肥満日本人の、体重・体脂肪量・血清トリグリセリド値を減少させる』
まずはじめに、日本における肥満の定義を確認しておきましょう。肥満とは、単に体重が多いことではなく、体脂肪が過剰に蓄積した状態を言います。
肥満の定義(成人)
肥満と健康 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、体格指数(BMI)25以上のもの」
※BMI(Body Mass Index)=[体重(kg)]÷[身長(m)2]
つまり、「食酢の肥満への効果」とは、すでに脂肪が体についてしまった状態から、脂肪を減少させる効果を意味しています。このことを科学的に実証しようとした研究論文を、みなさんにご紹介します。
ミツカングループによる研究です!2009年に発表されました。
『Vinegar Intake Reduces Body Weight, Body Fat Mass, and Serum Triglyceride Levels in Obese Japanese Subjects, Tomoo KONDO, Mikiya KISHI, Takashi FUSHIMI, Shinobu UGAJIN, Takayuki KAGA, Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Volume 73,2009, https://doi.org/10.1271/bbb.90231』
日本語訳しましょう。
『酢の摂取は肥満日本人の、体重・体脂肪量・血清トリグリセリド値を減少させる』
論文タイトルの時点ですごいとしか言いようがないですが、個人的に言及したいポイントはこのあと解説します。まずは、本家ミツカンさんの解説記事をご覧ください。
読んだら戻ってきてくださいね!
論文の概要をざっくり紹介します
お酢(特にその主成分である酢酸)は、ラットによる試験で、体脂肪の蓄積を抑制することが報告されました。そこで、BMI25~30kg/m²の肥満日本人175名(病気でない・薬を飲んでいない人)を対象に、食酢を飲むことで肥満が改善するかどうかを調べました。
研究の方法
被験者は3つのグループに分けられ、12週間にわたり、毎日、特定量の飲料を摂取しました。
- ①「低用量群」:酢15ml(酢酸750mg)
- ②「高用量群」:酢30ml(酢酸1500mg)
- ③「プラセボ」:酢0ml(酢酸0mg、乳酸1250mg)
また、被験者は、以下の行動が求められました。
- 測定日の3日前に食事と間食の内容を日記に記録する
- 毎日歩数をはかる
- 測定日の前日は飲酒・運動を控え、測定まで12時間絶食
- 測定日当日は、血液採取・血圧・体重・ウエストサイズなどを計測する
- 内臓脂肪面積(VFA)と皮下脂肪面積(SFA)を測定するため、0週目と12週目に腹部CT画像を撮影
被験者さん大変だ…
研究の結果
酢を摂取したグループでは、体重、BMI、体脂肪量が有意に減少しました。特に酢の量が多い「高用量群」の方が、「低用量群」よりも効果が大きい結果となりました。また、血清トリグリセリド値も低下しました。
※トリグリセリドとは、血液中にある特定の脂肪のことで、よくメディアでも話題に上がる中性脂肪の一種です。つまり、血清トリグリセリド値というのは、血液中の脂肪の量(血中中性脂肪量)と考えてOKです。
「Vinegar intake reduces body weight, body fat mass, and serum triglyceride levels in obese Japanese subjects」
(Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 73, 2009)より作成。クリックで拡大します
まとめ
肥満の方が、一日に食酢約15mL(大さじ1杯分、酢酸750mg量)を継続して摂取したところ、副作用なく、体重、内臓脂肪および皮下脂肪量、ならびに血清トリグリセリド値を減少させました。また、食酢の摂取をやめると、各指標はまた高い数値に戻ってしまうので、継続して摂取することが重要です。
この研究結果から、お酢を毎日飲むことで、日本人の肥満を抑制し、さまざまな肥満関連疾患を予防する可能性があると示唆しています。
食酢と体脂肪量の減少の因果を証明することの難しさ
この研究の重要なポイントは『食酢と体脂肪の減少の因果を示せるのか』という点に、真正面から挑んだことだと私は考えています。
一般的に、食品の成分が持つ効果効能を臨床試験で証明することは困難です。なぜなら、食品には多くの成分が含まれていて、相互作用が考えられるからです。また、効果の程度も薬に比べて小さいことが多く、効果の発現まで時間がかかることも多いです。摂取する人によって効きやすさも異なり、個人差が大きいことも課題です。
また、体脂肪は、食事量、食事の時間、睡眠、運動量など、さまざまなライフスタイルの影響を受けます。そのため、体脂肪が増えた減ったという結果は当然出るのですが、それが何によるものなのか、原因を特定することは難しいのです。
原因も複雑、結果も複雑なテーマだからこそ、測定項目と制限がとても多くなります。12週間という長期間の臨床で、拘束期間も長く、14名の被験者は途中で辞退するなど、被験者さんにとっても負担の大きいものだったと思います。
この論文では、メカニズムについて深く言及しているわけではありません。しかし、科学的な臨床試験の結果として、重要な一歩です。
ただ、同じような規模と精度で別の研究が出てくることがあるだろうかというと、労力的にも金銭的にも難しいのではないかと思います。したがって、同じ角度から、この論文を支持するようなものが新しく出てくることはなさそうです。
今後は、「なぜ酢酸の摂取で体脂肪が減少するのか?」「体脂肪を減少させるような因子と酢酸の関係」といった課題に取り組むことが期待されます。
機能性表示食品の「酢酸」成分の科学的根拠に採用されている
機能性表示食品とは、消費者庁に届け出ることで、事業者の責任で、科学的根拠をもとに、商品パッケージに機能性を表示することができる食品です。たとえば「おなかの調子を整えます」「脂肪の吸収をおだやかにします」などの、特定の健康機能が期待できることを表示することができます。ちなみに、届出情報は以下のデータベースから検索することができます。
実は「酢酸」成分の機能性表示食品として、「肥満気味の方の内臓脂肪を減少させる機能があることが報告されています。」と表示するための科学的根拠となっているのが、今回ご紹介した論文です。届けを出しているのは、ミツカンさんだけではありません。さまざまな企業の食酢関連商品の機能性の根拠として、この論文をレビューしています。
この研究結果があるからこそ、食酢業界全体で、お酢の具体的な効能を明言し、機能的な一面を訴えることが可能になりました。非常に社会的意義のある重要な研究だと思います。
お酢の醸造元として、この論文をきちんと紹介することで、お酢をより深く知っていただき、活用していただくきっかけとなりましたら、皆さんの健康維持に少しでもお役に立てるのではないかと期待しています。
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。