魚介の臭みを消すお酢の力。酢洗いで海の幸を美味しく食べよう
イワシやサバなどの魚特有の生臭さは、お酢の主成分「酢酸」によって抑えることができます。この記事では、魚を美味しく食べるための、お酢の上手な使い方をご紹介します。
魚の独特な生臭さの原因「トリメチルアミン」
ヒトは、ニオイの原因物質を鼻の奥にある嗅細胞で感知することで、「臭い」や「香り」といった感覚を抱くことができます。魚の生臭さの主な原因物質は、「トリメチルアミン」というアルカリ性の成分です。
この成分は、魚の死後に、魚肉に含まれる「トリメチルアミンオキシド」が微生物の酵素によって分解されて発生します。時間が経つほどに大量に発生するので、魚介の鮮度指標にもなっています。
トリメチルアミンの不快なにおいは、ほんの少しの量でも感じることができてしまうため、魚の加工において、いろいろな工夫が行なわれてきました。ツナのオイル漬け缶詰めに臭み消しのローレルの葉っぱを入れたり、魚の調理にサフランを入れたり、刺身にはわさびが添えられたり、長期保存のために燻煙を用いたり。
お酢は、魚の生臭さの原因物質に直接作用して、不快なにおいを抑制します。トリメチルアミンはアルカリ性の物質なので、酸性の酢酸に付けると中和され、臭いを取り除くことができるのです。この性質を活かして、下ごしらえする際に酢洗いをしたり、魚を煮るときにお酢を加えたりします。
【参考文献】
・総務省機関誌「ちょうせい」第105号(令和3年5月)
・魚の生臭さとその抑臭(太田静行, 油化学, 1980)
酢洗いのやり方
酢洗いとは、材料に酢をふりかけたり、酢水の中にくぐらせて身を締め、軽く酢の味をしみ込ませる調理法のことです。酢洗いは、魚の生臭さを消すのと同時に、魚の表面についた微生物を殺菌することもできます。
0.1%濃度の酢酸で静菌されることが確認されています。また、日本で一般的な米酢・穀物酢の場合、酸度は4%程度です。したがって、消臭と抗菌の2つの効果を引き出すためには、水180mlに小さじ1のお酢を混ぜると良いでしょう。お米カップが180mlなので目安にしてみてください。
酢酸は、魚のタンパク質を変性させる効果もあるので、魚のサイズや種類によって酢洗いの時間を調整します。
小さい魚の場合は、サッとくぐらせたり、上からザル越しにざっと酢水を振りかける程度で済ませましょう。小浜の名物『小鯛ささ漬け』も、レンコ鯛をくぐらす程度で〆ています。スーパーで買ってきたパックの鯛の刺身などでも、醤油の代わりに二杯酢(醤油1+酢1)を使って、簡易的に酢をくぐらせると臭み取りに良いです。味変にもなります。
刺身用のサクのサバやイワシなど、身の厚さのあるときは、2~3分漬け込むと、ふっくらとした食感になります。タラやスズキのような大きな白身魚の場合は、15分~1時間と長めに漬けるのがおすすめです。一晩漬けておく方もいます。
少し甘くなりますが、すし酢で酢洗いすることもできます。
刺身としてそのまま食べればもちろん酢の味がしますが、フライや蒸し焼きなどで加熱をすると酢の味は感じません。しっとりと、美味しく仕上がります。
新鮮なイワシなんかは、軽く酢洗いしたさしみが最高ですね~
酢洗いは、魚介だけでなく、さといもやゴボウなどの野菜にも適用できます。野菜のえぐみは、酢洗いするか、酢を加えた水で茹でると良いです。
【参考文献】SALT FAT ACID HEAT – サミン・ノスラット【ISBN:9784418213139】
海水魚をお酢で美味しく
トリメチルアミンオキシドは、海水魚に多く、特に白身魚に多く含まれています。一方、淡水魚独特のにおいの原因物質は、ピベリジン、ゲオスミン、2-メチルイソボルネオールです。『土臭』『カビ臭』と表現されることが多いです。
においの原因が異なりますので、酢洗いや酢煮は主に海水魚に効果があると考えていただければと思います。鮎のたで酢など、川魚を美味しく食べるためのお酢の使い方はもちろんあるのですが、それはまた別の機会にご紹介します。
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。
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