お酢と血糖値の関係・メカニズム

お酢を知ろう

酢と血糖値の関係

古来より、お酢は薬用や病気の治療に用いられ、健康をサポートするものとして経験的に知られてきました。近年、食酢の健康機能・生理機能が科学的に明らかにされつつあります。特に注目されているのが、食後の血糖値上昇を抑制する効果です。

もう少し簡単な表現にすると、お酢とごはんを一緒に食べることで、食後の血糖値の上昇が緩やかになります。これは、お酢の主成分「酢酸」によるもので、米酢や黒酢、リンゴ酢、ワインビネガーなど、お酢の種類を問わず、すべての食酢に共通する効果です

1988年に動物試験で初報告(※1)されて以来、国内外で多くのヒト試験が行われてきました。海外では、じゃがいも料理+酢ドレッシング(※2)、パンと食酢の組み合わせ(※3)など、日本では白飯と酢ドリンク、白飯と酢の物を一緒に食べた場合(※4)などが報告されています。これらの研究から、お酢と炭水化物を一緒に摂取した人の方が、そうでない人よりも食後の血糖値の上昇が抑えられることが示されています。

【参考】
※1:Ebihara and Nakajima, 1988
※2:Leeman, M., Östman, E. & Björck, I, 2005
※3:Ostman E, Granfeldt Y, Persson L, Björck I, 2005
※4:稲毛寛子, 佐藤由美, 榊原章二, 2006

しかし、なぜお酢が血糖値をコントロールするのか。そのメカニズムはまだ解明されていません。この記事では、お酢と血糖値の関係について、そして、現在仮説として考えられている作用メカニズムについて、分かりやすく解説します。

血糖値とは?血糖コントロールが大切な理由

血糖値は、血液中のブドウ糖の濃度を指します。ブドウ糖はグルコースという名前でも知られており、私たちの主要なエネルギー源として利用されます。

ごはんやパンなどの炭水化物は、口から胃を経て、小腸で消化・吸収されます。そして、ブドウ糖となって血液に入ります。血液中のブドウ糖が増えて血糖値が上がると、すい臓から「インスリン」というホルモンが分泌されます。インスリンの働きによって、血液中のブドウ糖が細胞内に取り込まれ、エネルギー源として利用されます。

血糖値とインスリン分泌のサイクル

血液中のブドウ糖が余ったら、インスリンの働きによって筋肉や肝臓・脂肪細胞に貯蔵されます。勉強したり、身体を動かしたりすると、血液中のブドウ糖がどんどん利用されます。その結果、血糖値が下がり、インスリンの分泌も減ります。空腹になると、またごはんを食べて血糖値が上がります。

食前・食中・食後の血糖値の変動の様子

血糖値は健康な人であっても、食前・食後などさまざま要因で変動するものです。糖は人間が活動するために必要なエネルギー源であり、少なすぎるのも多すぎるのも良くありません。

とくに、血糖値が高いまま下がらない状態が続いたりすると、糖尿病などの生活習慣病を発症する危険が高まります。糖尿病は、網膜症、腎症、神経障害という合併症を引き起こすこともあります。(※5参考:血糖値 | e-ヘルスネット(厚生労働省), 糖尿病 | e-ヘルスネット(厚生労働省)

食事と一緒にお酢を摂取すると、食後血糖値の上昇が緩やかになる

食後の血糖値は、誰でも一時的に高くなりますが、インスリンがすぐに分泌され、食後2時間以内には正常値に戻ります。問題は、食事後の血糖値が急激に上昇してしまうことです。この症状を「血糖値スパイク」といいます。(※参考6:公益財団法人 福井県予防医学協会

血糖値が急上昇すると、インスリンが大量に分泌され、急激に血糖値が低下します。このような血糖値の急激な変化を繰り返すと、血管は傷つきますし、インスリンを分泌するすい臓を酷使することになり、機能低下、または機能不全を起こす可能性があります。

血糖値スパイクを起こさせないためには、血糖値の上昇につながる糖質の吸収をゆるやかにすることが大切です。その一つの方法が、食事と一緒に食酢を摂取すること。お酢とごはんを一緒に食べることで、食後の血糖値の上昇が緩やかになります。

以下のグラフは、健常な女性を対象とした試験結果です。食酢約15ml(大さじ1/酢酸750mg相当)と白ごはんを摂取した方と、そうでない方を比較したところ、食後30分の血糖値上昇のピークにおいて、平均上昇率は食酢を摂らなかった人たちよりも低いという結果になりました。

この研究では、「白ごはん+お酢飲料」「白ごはん+酢の物」という二つの組み合わせで実施されており、いずれの場合も食後の血糖値上昇が緩やかになっています。お酢を食事に取り入れることで、血糖コントロールをサポートし、糖尿病をはじめとするさまざまな病気のリスクを下げることへとつなげることができます。

また、血糖値スパイクを起こさせないためには、血糖値の上昇につながる糖質の吸収をゆるやかにすることが大切です。公益財団法人 福井県予防医学協会の資料によると、以下のような食事方法が提案されています。

  1. ①ゆっくりと、よく噛んで食事をする
  2. ②おかずを主食より先に食べる
  3. ③朝ごはんをちゃんと食べる
  4. ④主食単品ではなく、おかずと一緒に食べる

これらの方法を基本として実施しつつ、食酢を取り入れて、食後の血糖値をコントロールすることが推奨されます。

お酢の血糖コントロールのメカニズム

お酢(酢酸)の食後血糖値上昇抑制効果の作用メカニズムはまだ正確に分かっていません。現在提唱されている、いくつかの可能性をご紹介します。

【1】酢酸が、腸細胞の消化酵素スクラーゼの活性を低下させる説(※7)

スクラーゼは、ショ糖(スクロース)を分解する消化酵素です。スクロースは、ブドウ糖と果糖の2つの単糖に分解されます。酵素の活性が高ければ、より多くの糖を分解することができますが、逆に活性が低ければ分解速度は緩やかになります。分解が遅れた結果、消化吸収も遅れて、血糖値の上昇が緩やかになる可能性が考えられます。

【2】酢酸によって、胃から小腸への食べ物の移動速度が遅くなる説(※8)

【3】酢酸が、肝臓と筋肉への糖の貯蔵を増加させる説(※9)

ラットによる試験結果によると、酢酸が肝臓と筋肉に、より多くの糖を貯蔵し、糖と脂肪をエネルギーとして利用する方法を変えるのを助ける可能性が示唆されています。

【4】α-アミラーゼの作用を阻害する説(※10)

食べ物を口に入れたときに分泌される唾液に含まれている「α-アミラーゼ」という消化酵素は、炭水化物に含まれるデンプンを分解します。α-アミラーゼが働くのに適したpHは中性です。一方、酢酸のpHは低く、酸性であり、α-アミラーゼの働きは弱まります。分解が遅れた結果、消化も遅れて、血糖値の上昇が緩やかになる可能性が考えられます。

ここに上げた説は、支持する試験結果もあれば、支持しない試験結果もあるため、ハッキリしたことはまだ分かっていないというのが現状です。食品成分を対象とした研究は、作用の個人差が大きく、他の原因の関与も大きく、比較試験の設定が困難なケースが多いため、検証が難しいのです。しかしながら、人々の健康に影響を与える重要なテーマであることから、世界中で科学的な検証が進められています。

【参考】
※7:Ogawa, Nobumasa, et al., 2000
※8:Liljeberg, H., Björck, I, 1998
※9:Fushimi, T., & Sato, Y. , 2005
※10:Santos HO, de Moraes WMAM, da Silva GAR, Prestes J, Schoenfeld BJ., 2019

血糖コントロール機能を引き出すお酢の摂り方

食後の血糖値上昇を緩やかにする目的の場合、お酢は、食事の直前、または、食事中に同時摂取すると良いでしょう。食後では遅いです。酢は、飲むお酢でもよいですし、酢漬けや酢の物などのおかずとして摂取してもよいです。

摂取量は、大さじ1の約15ml(酢酸0.75g相当)が目安です。食酢の摂取量は多いほど抑制効果が大きいという研究(1.1、1.4、1.7gの酢酸を含む食酢での検証)も報告されているため、糖質の高い食事の際は、積極的に摂取することを推奨します。(※参考11:Östman, Elin, et al., 2005

中野 貴之

中野 貴之

酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目

「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。

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