酢酸菌とは?その働きやお酢の発酵との関係について

お酢を知ろう

酢酸菌によって作られた美しいちりめん膜

私たちとば屋酢店では、300年前から受け継いできた伝統製法でお酢を醸造しています。壺に仕込んだ液を静置発酵させる。すると、はじめに見えていた液面は、日に日に白いちりめん状の膜(↑上の画像のような状態)に覆われていきます。これは、酢酸菌の働きによるものです。

この記事では、お酢造りのパートナーである酢酸菌の素晴らしさ、面白さを皆さんに紹介します。

酢酸菌とは?

酢酸菌とは、アルコールを酸化して酢酸をつくる細菌のことです。一般に、米粒のような形をしていて、エネルギー代謝をして、アルコールを含む液の表面にて好気的に繁殖します。ここで皆さんに伝えたいのは、酢酸菌は細菌という生き物であるということです。

細菌は、目に見えないくらい小さな生き物です。日常生活において、意識することはあまりないかもしれませんが、実は、人の体内にもたくさんの菌が存在しています。例えば、腸内細菌であるビフィズス菌、乳酸菌は、健康維持に役立つものとして有名ですね。

食中毒の原因菌であるO157などの大腸菌、黄色ブドウ球菌もまた、細菌の仲間です。彼らは食べ物の栄養素を食べて増殖し、毒素を出したりします。結果、食べ物を腐敗させてしまいます。同じ細菌の活動によって、発酵して美味しいものが出来上がったり、腐敗してたべられなくなってしまったりするのです。

13代目

発酵と腐敗はよく似ており、明確な区別はありません。人間の価値観に基づいて、人に有益な働きを発酵、害を及ぼす働きを腐敗と呼んでいます

細菌は、自然界のいろいろなところにいます。土の中、稲わらの中にもいます。酢酸菌は空気中にもいますし、自然界にある花や、ぶどう・柿の実などの果実中にもいます。常在菌として世界中に広く存在しており、各地のお酢造りのパートナーとして活躍し続けているのです。

酢酸菌のはたらき~酢をつくる酢酸発酵

酢酸菌の主なはたらきは、アルコールから酢酸を生成することです。この過程は「酢酸発酵」と呼ばれ、化学式で表すと次のようになります。

C2H5OH (エタノール) + O2 (酸素) → CH3COOH (酢酸) + H2O (水)

式が示す通り、酢酸菌はエタノールと酸素を利用して酢酸と水を生成します。原料が米であろうとブドウやりんごなどの果物であろうと、酢酸発酵を経て酢酸は作られます。この酢酸を作るという機序に注目すると、酢酸菌の面白い生存戦略が見えてきます。

酢酸を作ることで低いpH環境をつくり他の菌を排除する

酢酸菌のごはんは、人間も大好きな糖やアルコールです。美味しくて、栄養たっぷり。他の菌たちも大好きなごはんです。つまり、『競争者』が多いということです。酢酸菌は、カビ・酵母・乳酸菌など多くの微生物と競い合いながら生きています。

酢酸菌はまず、アルコールから酢酸を生成します。酢酸がどんどん増えることで水素イオン濃度(pH)は下がり、他の微生物の生育を止めてしまいます。さらに、pHが低いというだけでなく、生成した酢酸そのものが、他の微生物にとって有害なものとなります。


実は酢酸は、pHが低い環境下では、水素イオンがまわりに大量にあるため解離せず、そのままのCH3COOHの状態で、細胞質膜を透過して細胞内に流入することができます。分かりやすく言い換えると、酢酸分子は細菌の細胞膜内に大量に侵入するのです。細胞内は中性であるため、侵入した酢酸分子はCH3COO-とH+に解離して、細胞内部のpHを下げてしまいます。身体の中のpHを下げられてしまったら、ひとたまりもありません。ほとんどの微生物は、0.2〜0.5%以上の酢酸存在下で生育することはできないのです。

酢酸の抗菌力の高さは、古くからよく知られており、魚の酢締めや野菜の酢漬け・ピクルスなどの保存食づくりに活かされてきました。酢酸菌も人も、酢酸の抗菌性を使って栄養素を確保しているなんて、とても面白いですよね!

※参考文献:
好気呼吸による「発酵」を行う酢酸菌|松下一信, 生物工学(2012)
微生物生育のための最適pH|株式会社 東邦微生物病研究所

瓶詰めしたお酢中の酢酸菌は加熱殺菌によって死滅しています

酸性条件ではとても強い酢酸菌ですが、熱には弱く、加熱すると死滅します。商品として販売される食酢は、HACCPに基づき、瓶詰めの前にろ過や加熱殺菌をしています。(※参考:HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書)従って、市販されている食酢に入っているのは、生成物である酢酸であり、酢酸菌の亡骸はろ過でほぼ除去されています。

ここで注意していただきたいのが、一般的に食酢の効果・効能としてあげられているものは、酢酸菌を生きたまま取り込むのではなく、酢酸菌によって作られた酢酸を取り込むことで得られるものだということです。酢酸菌を体内に取り入れることと、食酢に含まれる酢酸を摂取することはまったく別のことです。

ちなみに、生きた酢酸菌を体内に取り入れる効果や、酢酸菌の亡骸を摂取することの体内での効果なども、分かってきていることがたくさんあります。また、酢酸以外にも味や香りを左右する様々な発酵由来の有機酸などの成分も含まれていたりします。いずれ別の記事で詳しくご説明したいと思います。

開封したお酢を放置しておくと酢酸菌が集まってくる

開封したお酢を常温で放置しておくと、白く濁ったり、浮遊物が発生することがあります。これは、自然界にいる野生の酢酸菌が、酢酸のある場所を好んで集まってきているのです。酢酸菌がもっとも快適だと思う生育温度は30℃。瓶のフタを開けて、空気がよく通る条件にしておけば、酢酸菌の好む環境が揃います。

ご家庭で開封したお酢に浮遊物が発生したりした場合は、香りがおかしくなったりしますので、ひどい場合は使うのを中止されることをおすすめします。

逆に、醸造酢を自分でつくるときは、アルコールにお酢を少し入れることで、大気中の酢酸菌を呼び寄せて、発酵を促しています。ただし、酢酸菌は何種類もいますし、野生の酢酸菌がどのような株でどんな特徴をもっているかはわかりません。また、酢酸菌以外の細菌の発酵が進む場合もありますので、十分にご注意ください。

中野 貴之

中野 貴之

酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目

「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。

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