お酢の酸度とは?pHとの違い・味への影響について
お酢・調味酢の食品表示ラベルには、必ず酸度という表記があります。酸度とは、食酢に含まれる有機酸の割合のことを指し、酢酸・クエン酸・コハク酸などのすべての有機酸を酢酸に換算して算出しています。
伝統製法で作られた純米酢やりんご酢、バルサミコ酢などは、酢酸だけでなく、さまざまな有機酸を多く含んでいます。酢酸そのものの酸味は、ツンとくるような刺激的な強い酸味ですが、りんご酸やコハク酸、クエン酸などが複雑に混ざりあうことで、まろやかな口あたりや独特の風味を作り出しているのです。
つまり大事なのは、酸度が高いからといって、ツンとするわけではないということです。この記事では、誤解されやすい酸度について、pHとの違いや酸度と味覚の関係性など、詳しく解説しています。
酸度とpHの違い
酸度とpHは、異なる方法で測定される値ですが、相互に関連しています。酸度は、食酢100ml中に含まれる有機酸成分が何グラム入っているかを%で表したものです。酸度が高いということは、その液体の中に有機酸が多く含まれているということです。
一方、pHは、液体がどれだけ酸性か、またはアルカリ性かを数値で表したものです。pHは0から14までの数値で表され、7が中性、7より小さい場合は酸性、大きい場合はアルカリ性を表します。学校の授業でリトマス試験紙を使って調べた記憶のある方もいらっしゃるでしょう。酸性は、酸(水に溶けると水素イオンH+を生じる物質)が多く、アルカリ性は、塩基(水に溶けると水酸化物イオンOH-を生じる物質)が多いということです。
酸度とpHは相互に関連していますが、同じことを表しているわけではありません。酸度は酸の「量」を、pHは酸の「強さ」を表しています。酸度が高い(酸の量が多い)からといって、必ずしもpHが低いとは限りません。食酢に含まれる他の成分が酢酸を緩衝することで、酸度が高くても、pHが穏やかになることもあります。ちなみに、一般的な食酢の酸度は4~6%、pHは1.8~3.8程度です。
食酢の酸度と味覚の関係性
基本的には、酸度の高いお酢は、酸っぱい味になるケースが多いです。しかし、酸度が高いから酸っぱくなる、というような因果関係があるわけではありません。食酢の酸味の感じ方は、お酢の原材料の違いや残っている糖分の多さ、酢酸以外の有機酸の量など、さまざまな要素に影響されます。
たとえば、下の写真のバルサミコ酢は酸度が6.0%です。一般的な穀物酢や果実酢よりも酸度が高いのですが、試飲すると「甘い」と感じます。
このバルサミコ酢は炭水化物が28.2gも含まれています。お酢の場合、ほぼ糖質と考えてよいでしょう。今、私の手元にある他のお酢の炭水化物量が1.4g~2.0gですので、このバルサミコ酢は濃縮ブドウ果汁由来の糖がたくさん残っていると考えられます。この糖分が酢酸の酸っぱさを抑えているのです。
ちなみに、このりんご酢は酸度が5.0%で、試飲すると酸っぱいと感じます。酸っぱいリンゴ味なので、クエン酸主体のレモン味とは異なります。リンゴジュースのような酸っぱさなので、刺激は少なく、飲みやすいです。
りんご酢やきび酢、純米酢のように、酸度が高くても有機酸成分が豊富に含まれている場合、酸味の感じ方をおだやかにして、複雑な風味をもたらしてくれます。さらに、原材料がもともと持っている甘み・うまみ・香りなどで、お酢の味わいは決まってきます。さまざまな成分とのバランスが味をつくるのです。
pHと味覚の関係では、一般的に、食べ物をおいしいと感じるのはpH4〜6のとき、酸っぱいと感じるのはpHが3以下のときといわれています。一般的な食酢の酸度は4~6%、pHは1.8~3.8程度です。
食酢の酸度と味覚の関係性は非常に複雑です。そもそも味覚は、五感や心理状態で感じ取るものです。食べ物から受ける甘い酸っぱいといった化学的な刺激だけでなく、温度や食感といった物理的な刺激、空腹状態などの生理的な要因、食習慣などの環境要因にも影響されます。
当然、調味料として使う食酢ですので、調理過程で酢酸が飛んだり、塩味や甘味と相互作用したりします。その総合的な結果が、料理を口に入れたときの味として評価されるのです。
食酢の酸度は食品表示で義務付けられている指標
酢の酸度は、消費者庁の食品表示ラベルで表示を義務付けられています。つまり、酸度は食酢の品質・安全性を証明する要素となっているのです。(※参考:食酢の表示に関する公正競争規約及び施行規則(令和4年2月))
お酢の主成分である「酢酸」は強い抗菌作用があり、病原菌の増殖を抑えることができるため、保存食づくりによく使われます。酸度が高ければ高いほど、また、pHが低いほど抗菌力は強くなります。そのため、保存食づくりなどの用途では酸度の高いお酢が好まれます。
また、JAS規格の食酢の分類においても、酸度は重要な指標の一つです。穀物酢であれば、酸度4.2%以上、果実酢は4.5%以上、それ以外の醸造酢は4.0%以上と厳格に規定されています。この酸度は、お酢そのものの保存においても、品質維持に必要な数字とされています。(※参考:HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書-全国食酢協会中央会)
酢は弱酸ですが、優れた抗菌性をもっています。pHや酸度だけでなく、有機酸それぞれがもつ抗菌作用の効果もあわさって、優れた特性を発揮しているのです。先人の知恵と経験で、お酢を天然の日持ち剤として使っていたことは、理にかなっていると考えられます。
まとめ
酸度は、食酢の味、抗菌性に影響を与える重要な要素です。酸っぱさは、食酢に含まれる酸の量(酸度)と酸の強さ(pH)とも関係があります。しかし、必ずしも、高い酸度や強い酸性が「酸っぱい味」をつくるわけではありません。酸味は、他の味覚との兼ね合いや有機酸の種類など、さまざまな要因に影響されます。
「美味しい」の正解を持っているのは、自分自身です。まずは、さまざまな酸度のお酢を試してみてください。なぜこのお酢は酸っぱいのか、まろやかなのかと探求してみてください。お気に入りのお酢が見つかったら、成分を確認して、料理に与える影響を考えてみると、お酢の使い方がだんだん体感できるようになります。
とば屋自慢の純米酢「壺之酢」は、JAS規格で決められている原料米の4倍ものお米を使用しており、お米由来の有機酸が多く含まれています。静置発酵で時間をかけてつくることで、まろやかに仕上がっています。他の味と合わせやすく、素材を引き立てる調味料にふさわしいお酢です。どうぞお試しください。
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。