紅色鮮やかに!お酢によるアントシアニン色素の発色効果について
お酢の特性のひとつに、食材の色をより鮮やかにする色出し効果・発色作用があります。たとえば、ミョウガの甘酢漬け。ミョウガに含まれているアントシアニン色素は、お酢の酸によって、紅色に発色するのです。
料理は目で食べるとも言われるように、料理の見た目は、美味しさを構成する重要な要素のひとつ。特に赤色は、人間の食欲を増進させる働きがあるので、料理の仕上がりがグッと良くなります。お酢の力を取り入れて、食欲のそそる赤色を使いこなしてみませんか。この記事では、お酢とアントシアニンの関係を詳しく掘り下げていきます。
そもそも食材の色って何?なぜ色が変わるの?
オレンジ色のにんじん、緑色のピーマン、赤色のトマト、紫色のナス。野菜や果物などの植物には、色を発する物質『色素』が含まれています。天然植物色素は、主に、フラボノイド、カロテノイド(黄・橙・赤)、ベタレイン(赤・黄)、クロロフィル(緑)の4種類に分類されます。どの色素がどれくらい含まれているかによって、食材の色は、多彩な様相をみせるのです。
大分類 | 色素 | 分類 | 色 | 所在・用途など |
---|---|---|---|---|
植物性食品の色 | フラボノイド | フラボン、フラボノール、イソフラボンなど | 黄・無色 | 大豆・玉ねぎの皮・そばなど |
カルコン、オーロン | 濃黄 | ベニバナ、カーネーションなどの花 | ||
アントシアニン | 赤・赤褐色 | 赤紫蘇・なす・黒豆・いちご・赤カブなど | ||
ベタレイン | 赤や橙色 | オシロイバナ、ケイトウなどの花 | ||
カロテノイド | カロテン | 赤・橙 | にんじん・トマト・柿・あんず・柑橘類など | |
キサントフィル | 黄 | とうもろこし・かぼちゃ・とうがらし・緑茶など | ||
クロロフィル | 黄・緑・青 | 緑黄色野菜・ピーマン |
【参考文献】
花き研究所:フラボノイド | 農研機構
河野友美・大滝緑・山口米子『おいしい和食をつくるコツ』旭屋出版【ISBN:9784751104934】
色素は、似たような構造をもった化合物の総称です。料理の過程で、加熱されたり、PHが変わったり、光を浴びたり、空気中の酸素と反応したりすることで、元の物質とは異なる別の物質に変化します。物が変われば、色の特徴も変わる。食材としても、見た目の色味が変わるのです。
中でも、植物色素フラボノイドに分類される色素の1つ、アントシアニンは、酢を加えて酸性になることで、もっとも美しい赤系統の発色を示してくれます。
PHの違いによるアントシアニン色素の色変化の様子
アントシアニン色素の特徴を簡単にまとめます。野菜やくだものだけでなく、自然界にある草花、植物の紅・紫・黒色の大部分は、アントシアニン色素によるものです。水に溶けやすく、酸性条件下では赤・紅色、中性で紫、アルカリ性では青色になります。
身近な植物で例を出すと、紫陽花の色が分かりやすいです。これもアントシアニン色素によるもので、酸性の土壌だと青色、アルカリ性だとピンク色の花が咲きます。どっちもキレイですよね~
さて、お料理においては『美味しそうに見える』かどうかが大事です。簡単な実験をしてみましょう。
それぞれ、お酢(酸性)と水(中性)、こんにゃく液(アルカリ性)を混ぜてみます。
同じアントシアニン色素によるものですが、食材によって構造が違うため、紫キャベツに含まれているアントシアニン色素と、バタフライピーに含まれているアントシアニン色素の色味は異なります。アントシアニンは、現在分かっているだけで500種類もあるそうです!植物の多彩な色味は、生物多様性の豊かさの一つなのです。
青色は食欲を減退させると言われますが、透明のグラスに入ったバタフライピードリンクは、涼し気で夏に飲みたくなる感じがします。つまり、お料理によって食材の活かし方は変わるということです。食材の個性を知って、相性の良さ・組み合わせを探求して、いろいろなお料理を楽しんでください。
アントシアニンが多く、お酢との組み合わせが良い食材と調理例
ミョウガの甘酢漬け
ミョウガの旬は、6月頃から10月までです。夏に採れるものは「夏みょうが」、秋に採れるものは「秋みょうが」と言われることもあります。焼き物・焼き魚のあしらいや箸休めによく利用されます。薬味らしい独特の香りがスッキリ爽やかで、お弁当やお寿司にも合います。
新しょうがの甘酢漬け
お寿司の付け合わせによく用いられるピンクのガリでお馴染みの新しょうがの甘酢漬け。9〜10月の秋頃が旬です。収穫してから日が経っていない新しょうがには、アントシアニン色素が含まれていて、甘酢漬けにすると、ほんのりピンク色に染まります。
黄色くなった長期保存用のしょうがだと、アントシアニン色素が少なくなっているので上手に染まりません。必ず、新しょうがを使いましょう。
赤カブの柚子皮いり即席漬け
赤かぶらには、アントシアニン色素がたっぷり含まれています。これを、薄くスライスして、柚子の皮と一緒に漬物酢に漬け込むと、即席千枚漬けが出来上がり。かぶらと柚子皮の相性はとても良いです。白ごはんと一緒にもりもり食べたいです。
紅芯大根のサラダ
おしゃれなカフェのランチによく利用されている紅芯大根の、紅の部分はアントシアニン色素によるものです。薄切りにしてサラダにしましょう。事前に漬けるのではなく、お酢を合わせたドレッシングを食べる直前にかけるのがおすすめです。酸性になればいいので、レモン汁などの柑橘果汁でも代用できます。
赤紫蘇ジュース
アントシアニンが豊富な食材の代表でもある赤紫蘇は、お酢で漬け込んで酢ドリンクにして飲むと幸せになります。紫蘇の風味でスッキリ爽やかな味わいです。なんといっても鮮やかなルビー色がとにかく美しいので、炭酸割りなどにして、おもてなしにも使える一品です。
毎年9月下旬に発売するとば屋のしそ酢も赤紫蘇をたっぷり使って漬け込んでいるので、とても美しいルビー色の酢に仕上がります。
果実酢(イチゴ酢・ぶどう酢など)
イチゴやブルーベリー、ぶどうやさくらんぼ、ざくろ、いちじくなど、アントシアニンが豊富な果物はたくさんあります。これらのフルーツをお酢と砂糖に漬けておけば、からだにやさしい果実酢が簡単に作れます。以下の記事に、レシピを紹介しているので、ぜひ挑戦してみてください!
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。