カルシウムを吸収しやすくする酢を使って効率よく栄養補給しよう
酢は昔から薬としても使われていたように、さまざまな効果・効能を持っています。その特性のひとつが、カルシウムを溶出する機能です。この機能に関しては、百聞は一見に如かずということで、私が実際に酢卵を作ったときの動画をご覧ください。
この動画では、卵の殻の炭酸カルシウムが酢酸によって、徐々に反応して溶け出し、発生した炭酸が泡としてプクプク出てきている様子を見ることができます。化学式で書くと、以下のようになります。
CaCO3 + 2CH3COOH → Ca(CH3COO)2 + H2O + CO2 ↑
炭酸カルシウム 酢酸 酢酸カルシウム 水 二酸化炭素
こうして、カルシウムが溶け出したお酢を丸ごと飲んでしまえば、手軽にカルシウムを摂取することができるという訳です。これは、古くからある民間療法のひとつで、古代ギリシア時代では患者に飲ませる薬でもありました。
酢卵については、別の記事で詳しく取り上げることにしまして、この記事では、カルシウムとお酢の関係をより深くご紹介したいと思います。
ちょっと難しいかもしれませんが、丁寧に解説するので、ゆっくり読んでもらえると嬉しいです!
そもそもカルシウムは吸収されにくい栄養素
カルシウムは、人の体にもっとも多く存在するミネラルで、骨や歯の形成に必要な栄養素です。不足すると骨が十分に成長せず、骨粗鬆症の原因にもなります。2020年版日本人の食事摂取基準によると、カルシウムの1日の推奨量は成人男性で700mgから800mg、成人女性で600mg~650mgと設定されています。
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
1~2歳 | 450 | 400 |
3~7歳 | 600 | 550 |
8~9歳 | 650 | 750 |
10~11歳 | 700 | 750 |
12~14歳 | 1,000 | 800 |
15~29歳 | 800 | 650 |
30~74歳 | 750 | 650 |
75歳~ | 700 | 600 |
一方、令和元年の国民健康・栄養調査によると、日本人のカルシウム摂取状況は推奨量を下回っており、不足しています。従って、カルシウムは積極的に摂取していきたい栄養素だといえます。しかし、残念ながらカルシウムは、食べた量がそのまま体内に取り込まれるのではなく、半分以上排出されます。吸収されにくい栄養素なのです。
なぜカルシウムは吸収されにくいのか?
カルシウムはどのように体に吸収されるのでしょうか。千葉県のWEBサイトに分かりやすく書いてありましたので引用します。
食物中のカルシウム(Ca)は胃酸によって溶解し、Caイオンとなって腸に送られ、腸管から吸収されます。
カルシウムはどのように体に吸収され、どうやって体から出ていくのですか。-千葉県
カルシウム(Ca)はきわめて反応しやすい元素です。自然界では炭酸カルシウム、リン酸カルシウムなどの安定したカタチで存在しています。自然にあるカルシウムを体内に取り込むためには、カルシウムにくっついていた諸々を強力な胃酸ではがして、Caイオンの状態にしなければならないのです。
大変でしょう?胃酸がいくら強力な酸だとはいえ、全部を溶かしてから吸収しないといけないなんて、胃液が足りません。そこで、お酢の出番です!お酢の主成分である酢酸は、食材そのものに働きかけて、食材に含まれるカルシウムを吸収しやすいカタチにしてしまうことができるのです!
カルシウムを効率良く摂取するためには、他のミネラルとのバランスが重要です。特に、リンやシュウ酸の過剰摂取はカルシウムの吸収を阻害します。お酢の力を過信せず、まずはバランスの良い食事を心がけましょう!
カルシウムの見かけ吸収率と保有率に及ぼす食酢の影響
食酢の健康機能の一つとして、カルシウムの吸収促進効果について調べた研究をご紹介します。この研究では、雌のラットを対象に、食酢がカルシウムの吸収に及ぼす影響を調査しました。食酢を添加した大豆タンパク飼料を食べたラットは、食酢なしのラットよりも、カルシウムの吸収率と保持率が上昇し、骨中のカルシウム含量も増加しました。これは、食酢の濃度が高いほど効果が顕著でした。
【参考文献】
大切な栄養素カルシウム:農林水産省
食酢の健康機能ーカルシウム吸収促進効果, 多山賢二、西澤直行
お酢を使って効果的にカルシウムを摂取できる組み合わせ
コンブ・ワカメなどの海藻と酢でカルシウム摂取
コンブやワカメなどの海藻には、アルギン酸カルシウムが多く含まれています。これらは、水につけたときのぬめりを出す成分です。しかし、お酢に浸すと、カルシウムがアルギン酸から離れ、やわらかく、しなやかになります。ちなみに、昆布を薄く削るおぼろ昆布やとろろ昆布は、酢に浸すことで柔らかくなる、アルギン酸の反応を利用して作られています。
皆さんのご家庭では、酢の物にされるのが一番簡単でしょう。刻み昆布・ワカメ・めかぶなど、海藻を使った酢の物は栄養たっぷりでおすすめです!
納豆・もめん豆腐などの大豆製品と酢でカルシウム摂取
豆腐や納豆などの大豆製品はカルシウムが多い食品です。たんぱく質も多く含まれているので毎日食べて、しっかり栄養摂取したいですね。朝ごはんに納豆を食べるという素敵な習慣をお持ちの方におすすめなのが、納豆にお酢を入れる酢納豆です。
白くなるまでよく混ぜて、お召し上がりください。さっぱりしているので、夏場は特におすすめです。
切り干し大根などの乾物と酢でカルシウム摂取
カルシウムは水に溶けにくい栄養素なので、乾燥させても食材に残りやすいです。乾燥させた結果、栄養素はギュッと凝縮され、旨味や甘味をしっかり感じることができます。中でも、切り干し大根はカルシウムの多い食材です。
三杯酢などで切り干し大根を戻すだけで、大根の甘味と旨味をじっくり感じられる一品になります。とば屋の人気商品手切り大根即席漬けも、切干大根と三倍酢を使用した商品です。ご自宅でも簡単にできて、おすすめです!
酢は食材のミネラル(カルシウム・マグネシウム・カリウム等)を引き出し、消化・吸収しやすくする溶出効果がある
代表的なミネラル分として、この記事ではカルシウムをご紹介しました。お酢(酢酸)による溶出効果については他に、マグネシウム・カリウムについても研究されています。
酢のカリウム溶出効果
カリウムはそもそも水に溶けやすいので、食材をお湯で茹でれば簡単に溶け出します。しかし、茹でるということは食感や食味に大きな影響が出ます。そこで、茹でずに、カリウムを溶出させることで、食にバリエーションを出そうとする研究がなされています。
論文によると、食材を食酢で漬け込むことでカリウムを溶出させることができます。(※参考文献)カリウムが溶け出した食酢と食材を両方食べてしまえば、溶け出したカリウムをまるごと摂取できますね。
酢のマグネシウム溶出効果
マグネシウムは、人の体に必要なミネラルで、リンやカルシウムとともに骨を形成してくれます。つまり、健康な骨のためには、カルシウムとマグネシウムをバランスよく摂取する必要があります。(※参考:e-ヘルスネット)
お酢は、カルシウムだけでなくマグネシウムも効率よく溶出させる効果がある(※参考文献)ので、バランスを保ちながらミネラルを摂取する一助となります。
最近では様々なサプリメントがありますね。ですが、一種類のミネラルをたくさん摂取することよりも、まずは、食事から摂れる栄養素を積極的にとることが重要です。もちろん、この記事で取り上げたものの他に、ビタミンDや鉄なども大切ですね。お酢を上手に使って、栄養バランスの良い食事習慣を始めませんか。
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。
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