お酢×チョコ!?テレビで紹介されたエアインチョコを検証しました
もうすぐバレンタインデーですね!みなさん、こんにちは。ブログスタッフの木林です。バレンタインといえばチョコレートですが、お酢×チョコはなかなか結びつかない組み合わせではないでしょうか。
しかし、昨年末にNHK「すイエんサー」という子ども向けテレビ番組で、お酢とチョコレートを使った『エアインチョコ』というレシピが紹介されていたことを知りました。
お酢の新たな可能性を模索する老舗のお酢屋としては、テレビにも取り上げられた新感覚スイーツにぜひ挑戦したい。そこで、今回はバレンタインに向けた特別編として、お酢を使ったエアインチョコを実際に作ってみて、その味や化学的な裏付けを検証したいと思います。
お酢×重曹×チョコでおもしろ食感エアインチョコ
材料【シリコンカップ6号 6個分】
板チョコレート | 100g |
食用の重曹 | 小さじ1 |
米酢 | 小さじ1 |
レシピでは穀物酢とありましたが、とば屋の米酢を贅沢に使います
作り方
【1】細かく割った板チョコを電子レンジで温める。500Wなら約1分、600Wなら約50秒。半分くらい溶けたらレンジから取り出し、混ぜながら余熱で溶かす。
【2】重曹と酢を素早く10回くらい混ぜる。スピードが命!
【3】【2】をチョコの中に入れて混ぜる。酢の水分がチョコレートになじんできたらOK。
【4】6個のかたまりに分ける。
【5】電子レンジで温める。500Wなら20〜30秒。チョコが膨らんだタイミングで加熱を止める。
【6】粗熱をとって、冷蔵庫で10分間ほど冷やせば完成!
※冷やしすぎると固くなりすぎるので注意
実験前の所感
お酢の酸味ではなく、酸性という性質を活かしたレシピですね。重曹とお酢を混ぜ合わせると、反応して二酸化炭素が発生します。これは作り方【2】の工程にあたります。化学式で書くと、以下の通り。
【A】
CH3COOH + NaHCO3 → CH3COONa + CO2 + H2O
酢酸 重曹(炭酸水素ナトリウム) 酢酸ナトリウム 二酸化炭素 水
チョコの中に混ざった状態で、この反応が起これば、確かに気泡で穴だらけの中身スカスカチョコレートになります。エアインチョコ。上手い名前ですね。
酢酸がきちんと反応すれば、出来上がりは酸っぱくならないでしょう。身近な材料でお酢の反応を楽しむことができる良い内容だと思います。スイーツづくりを通して、化学の勉強も出来てしまう。一石二鳥の知育菓子なのですね。
気になるのは【5】の工程です。なぜ加熱するのでしょうか。膨らむということは、加熱によってさらに発泡していると予想できます。お酢と重曹はとても反応しやすい組み合わせです。加熱の必要もなく、次々に発泡するのではと思います。要検証です。
実験ではこうして、仮説を立てて検証を繰り返していきます。楽しくなってきましたね!
【実験レポ①】酢と重曹を反応させて加熱せずに冷やす
まずは、自分の立てた仮説に従って、【5】の加熱をせずに冷やして固めるレシピを実践してみます。
写真の「②重曹と酢を手早く混ぜる」箇所を見ていただくと、あわあわと発泡しているのが解ります。混ぜ合わせた瞬間からどんどん反応は進んでいきます。チョコと重曹と酢を混ぜていくと、ドロッとした見た目に変わってきました。
これを6個に分けて、冷やします。
全然ふくらんでいる感じはありませんね。断面を見てみましょう。
硬い!!そして、ほとんど穴がない!サクサク食感になると書いてありましたが、残念ながら失敗したようです。実際に食べてみると、ガッチガチの塊。100gのチョコを6分割しているので、一個が想像以上に大きい。味については、酸味は一切ありませんが、後味がほんのり苦い…泣
苦いということは、重曹と酢が完全に反応せずに残っているのかもしれません
というと??
1gの重曹を完全に反応させるには、食酢だとだいたい16gくらい必要になります。このレシピだとお酢が足りない。残っている重曹を反応させるには、さらに酢を追加するか、加熱すると良いかも
本来のレシピだと加熱する必要があるらしいです。今からチンしてみましょうか?
やってみましょう
一度ガチガチに固まったチョコレートですが、溶けて緩やかにふくらんで、平べったくなりました。再度冷やして固めると、確かにさくほろ食感に!
加熱でふくらんだということは、反応していない重曹が残っていたと考えられます。重曹は水に溶かして加熱をすると、熱分解して二酸化炭素を発生させます
【B】
2NaHCO3 → Na2CO3 + CO2 + H2O
重曹(炭酸水素ナトリウム) 炭酸ナトリウム 二酸化炭素 水
重曹の反応を完全に終わらせるために、お酢と加熱の両方を使って、二段構えにしているのかもしれませんね
いっそ、お酢なしで加熱だけでも良いのではと思いました。これも要検証ですね!
【実験レポ②】酢と重曹を反応させて加熱してから冷やす
次は、加熱実験です。材料の在庫の都合上、チョコレートは半量に、重曹と酢は小さじ1/3にしています。【1〜4】までの工程は、実験①と同じなので省略します。
少量ずつに分けて、電子レンジ600Wで30秒。すると、少し膨らみました。
このまま冷やして固めてみます。冷やしすぎると固くなるので15分くらいで、断面を確認してみましょう。
実験①よりも、穴の大きさ、数は増えているのではないかと思います。残っていた重曹がきちんと反応したのでしょう。ガチガチ感はありません。さくさくというよりはさくほろ。崩れやすくなった印象です。
相変わらず後味で、苦みを感じます。それと、かなりしょっぱいです。酢酸ナトリウムはポテトチップスの塩味に使われることもあるそうです。
【実験レポ③】水と重曹を混ぜて加熱してから冷やす
次は、お酢を使わないレシピで実験です。チョコレートは50g、重曹と水は小さじ1/3ずつ。
お酢を使う場合と比較して、水と重曹を混ぜても泡が出ていない点に注目してください。
重曹を水に混ぜただけでは、二酸化炭素は発生しません。次に、重曹+水+チョコで混ぜ合わせたものをレンジで加熱してみましょう。
今回は明治さんのレシピを参考に、小分けする前にまるごと加熱してみました。目に見えてふわふわに膨らんでいます。フォンダンショコラの断面の質感に近いです。
これを小分けにして、冷やします。
見た目は、一番さくさくしています。しかし、断面をみると、気泡の穴はほとんど見られません。食感はほろほろ。硬さはありません。ちなみに、苦味はそこまで強くありませんでした。塩気はなく、チョコそのものの風味を一番感じることができました。
エアインチョコ実験結果まとめと考察
3つの実験結果をまとめます。
①酢+重曹+チョコ(加熱なし)
酢酸の反応はあったが、チョコレートはふくらまず。エアインほぼなし。がちがちで硬い。味はしょっぱく、後味はほんのり苦い。
②酢+重曹+チョコ(加熱あり)
酢酸の反応と重曹の熱分解によって、チョコレートは少しふくらむ。エアイン少しあり。さくほろで崩れやすい。味はかなりしょっぱく、後味はほんのり苦い。
③水+重曹+チョコ(加熱あり)
重曹の熱分解によって、チョコレートはしっかりふくらむ。エアインほぼなし。さくさくで崩れやすい。味は少し苦いが、チョコそのものの風味を感じられた。
味の仕上がりという視点で3つの実験結果を比較すると、③の水+重曹+チョコ(加熱あり)のレシピがもっとも美味しいと感じました。また、手早くする必要もありませんし、子どもと一緒に試してみるのであれば、落ち着いて作業できる③がやりやすいでしょう。エアインチョコっぽさがあります。
しかし、発泡という現象を直感的に理解するには、①や②の酢酸の反応の方が分かりやすいです。「すイエんサー」では「バブルでおいしい!楽しい!SP」という泡がテーマの番組構成だったようなので、視覚的な分かりやすさを優先して、お酢を使ったレシピを採用したのではないかと思います。
お酢を使って美味しさを追求するならどうしたらいい?
【A】
CH3COOH + NaHCO3→CH3COONa + CO2 + H2O
酢酸 重曹(炭酸水素ナトリウム) 酢酸ナトリウム 二酸化炭素 水
お酢を使うと酸っぱくなるのではと思いがちですが、出来上がりのチョコに酸味はありません。むしろ、酢酸ナトリウムの塩味の方が全体に大きな影響を与えます。そこで、美味しさのために目指すべきは、塩チョコのように『塩が甘さを引き立てる』状態です。
この記事では、バレンタイン用に販売されていた製菓用チョコレートを使用しましたが、チョコ菓子として市販されているものを使用したほうが美味しくなると思います。わかりやすい甘さを持った市販のチョコ菓子が良いでしょう。それと、酢酸ナトリウムがかないしょっぱいので、できるだけ重曹と酢の量を減らしたいですね。チョコ50gに対して、重曹・酢小さじ1/3ずつにしましたが、小さじ1/4ずつでも良いかもしれません。
等量の重曹とお酢だと、重曹の量が多くて中和しきれないように思います。1gの重曹を完全に反応させるには、食酢だとだいたい16gくらい必要になります。重曹を少量の水で溶かして、溶けたチョコレートに混ぜて、なじんだ後、お酢を少し多めに加えて加熱してみたら、また違った結果になるかもしれません
なるほど…。深堀りしていくと、次々にアイディアが浮かんできますね!せっかくのバレンタインですし、皆さんも、お酢を使った楽しい知育料理に親子で挑戦してみませんか
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。
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