酢の種類、原材料や風味の違いとおすすめの使い方
お酢は、酢酸(CH3COOH)を含む酸味のある液体調味料です。特に、食用として使うお酢を食酢と呼びます。この記事では、日本農林規格(JAS) で決められている食酢の分類についてまとめました。
酢酸やクエン酸、リンゴ酸といった、食酢に含まれているさまざまな酸の違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。
JAS規格による食酢の分類~醸造酢と合成酢
食酢にはさまざまな種類がありますが、まず「醸造酢」と「合成酢」の2つに分けられます。
醸造酢は、米や麦などの穀物・果実などの原料を酢酸菌で酢酸発酵させたもので、氷酢酸又は酢酸を一切使用していないものを言います。合成酢は、氷酢酸や酢酸を醸造酢などでうすめたものです。現代ではほとんどつくられていません。
醸造酢は、原料である米や大麦、小麦や果汁の使用量などが細かく規制されています。醸造酢は、さらに「穀物酢」「果実酢」「醸造酢」の三種類に分けられます。さらに原料の使用量によって、以下の表のように分類されています。
分類 | 主原料の使用量 | 酸度 | ||
---|---|---|---|---|
醸造酢 | 穀物酢 | 穀物酢 | 酢1ℓ中、穀類が40g以上 | 4.2%以上 |
米酢 | 酢1ℓ中、米が40g以上 | |||
果実酢 | 果実酢 | 酢1ℓ中、果汁が300g以上 | 4.5%以上 | |
りんご酢 | 酢1ℓ中、りんご果汁が300g以上 | |||
ぶどう酢 | 酢1ℓ中、ぶどう果汁が300g以上 | |||
醸造酢 | 醸造酢 | 穀物酢、果実酢以外の醸造酢 | 4.0%以上 | |
合成酢 | 合成酢 | 醸造酢の使用割合が60%以上であること (業務用は40%以上) |
4.0%以上 |
酢の種類による酸度の違い
JAS規格では、醸造酢の原料だけでなく、酸度についても厳しく規定しています。穀物酢は、酸度4.2%以上。果実酢は、酸度4.5%以上。それ以外の醸造酢は、酸度4.0%以上と決められています。
具体例をあげると、穀物酢である米酢・玄米酢・黒酢・粕酢・麦芽酢は酸度4.2%以上、果実酢であるぶどう酢(ワインビネガー)・バルサミコ酢・りんご酢は酸度4.5%以上です。ほかに、はちみつ酢やジャガイモで造る醸造酢は、酸度4.0%以上と決められています。
醸造酢の原料による違い
原料が違えば成分も製法も違うため、同じお酢でも、味はさまざまです。それぞれのお酢の原料の違いと特徴をまとめました。
米酢
米を原料として造った酢が米酢です。日本の代表的なお酢であり、お米由来のアミノ酸が多く、お寿司や和食に向いています。とてもスッキリした味わいで、他の味と合わせやすく、素材を引き立てる調味料にふさわしいお酢です。とば屋で醸造しているのも米酢です。
なかでも、純米酢「壺之酢」は、JAS規格で決められている原料米の4倍ものお米を使用しています。乳酸やアミノ酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸など、少なくとも8種類以上の有機酸が多く含まれています。静置発酵で時間をかけてつくることで、まろやかに仕上がった自慢のお酢です。
Q. 純米酢と米酢の違いは何ですか?
A. どちらも米酢ですが、原材料がお米のみである場合に限り「純米酢」と表示することができます。一方、アルコールを加えて造ったものは、米酢と表示されます。純米酢の方が風味とコクがあるため、まろやかです。一方、アルコールを添加したものは軽やかな味となるため、漬物などの調味酢に使いやすいのが特徴です。
Q. 静置発酵とは何ですか?
A. お酢の発酵には、空気(酸素)が必要です。 日本古来の製法である「静置発酵法(せいちはっこうほう)」は、かき混ぜることなく、発酵液表面に、酢酸菌の膜を形成させ、文字通り、静かに置いておく製法です。数か月かけて自然の力で酢酸発酵させます。一方、プロペラなどでかき混ぜたり、強制的に空気を通気させて発酵させる方法は、連続法・通気法といい、1週間以内で発酵を進めます。
粕酢(赤酢)
粕酢は、日本酒の製造時に副産物としてつくられる酒粕を利用します。酒粕を貯蔵槽で2~3年ねかせることで熟成させ、うま味成分を育てるのです。酒粕にはもともと約8%のアルコールが含まれているので、そのアルコールを酢酸発酵させてお酢にします。
伝統的な製法でつくったものは、濃厚な醤油のような色で米酢とは全く異なる芳香をもっています。酸味の刺激臭は少なく、コクのある味が特徴です。お酢の色が赤味がかっていることから赤酢と呼ばれています。江戸前寿司のシャリに少し色がついていることがありますが、赤酢を使っていることが多いです。
むわりと濃厚でもったりして、分かりやすい味です。飲むお酢よりは、調味料の隠し味として入れるのがおすすめです。バルサミコ酢と同様に、熟成酢として煮詰めてソースとして使うと良いかもしれません。
黒酢(醸造玄米酢)
玄米を原料にした米酢で、なかでも鹿児島県福山町周辺でつくられる黒酢は「鹿児島の壺造り黒酢」と呼ばれています。(※参考)野外において半年から1年間発酵させます。これは、原料も製法もとば屋の壺之酢とまったく異なるものですが、おなじように壺で発酵させる壺造りのお酢です。
褐色~黒褐色を帯びており、しっかりした旨味と独特の香りが特徴です。酸味のカドがなく、刺激が少ないため、最近では飲むお酢としてもよく利用されています。
麦芽酢(モルトビネガー)
麦芽酢は、発芽させた大麦の発酵によって造られる穀物酢です。原料となる穀物は、大麦・小麦・トウモロコシなどで、これら穀物のデンプンを麦芽で糖化して、アルコール発酵、酢酸発酵させて造る穀物酢です。麦芽は、米酢造りでいうところの米麹とおなじような働きをします。
主に、ドイツやイギリスなどのヨーロッパ諸国で利用されていて、洋食料理の調味料の定番です。洋酢とも言われます。麦芽由来の飲み物といえば、ビールですね。麦芽酢も、爽快なビールのような独特の香りを持っており、苦味をもっています。洋食料理で同じようによく利用されるりんご酢と比較すると、乳酸の含有量が多く、酒石酸やリンゴ酸は含まれていません。
りんご酢(アップルビネガー)
りんご酢は、完熟した糖分の多いリンゴを原料に造る果実酢です。りんご由来の香りと味に特徴があり、上品な香りをもっています。また、有機酸であるリンゴ酸を多く含んでいるため、酸味は爽やか。サワードリンクやマヨネーズなどに利用されています。
りんご酢は酸度が高く、穀物酢よりも酸っぱいです。今回試飲したものは、酸度5.0%でした。原液で飲んでも、むせかえるような感じはなく、果実の酸っぱさをそのまま感じられます。後味スッキリとした味わいなので、他の素材や調味料とも合わせやすいお酢です。
ぶどう酢(ワインビネガー)
ワインを原料にして造る果実酢で、ヨーロッパの国々を中心に広く使われています。ワインに赤と白があるように、ワインビネガーにも赤酢と白酢の二種類があります。
赤ワイン用のぶどうを原料にした赤酢(赤ワインビネガー)
色が赤くて、タンニンが多く、苦味と渋味、そして深いコクをもっています。その色と味を活かして、ソースやドレッシングによく利用されています。赤ワイン同様、牛肉・豚肉料理によく合います。
白ぶどうを原料にした白酢(白ワインビネガー)
赤ワインビネガーよりも、比較的あっさりと爽やかで、フルーティさをもっています。マヨネーズやドレッシングに利用されています。白ワイン同様、魚介系や鶏肉料理によく合います。
伝統製法で造るバルサミコ酢
メディアに取り上げられて一躍有名になったバルサミコ酢は、イタリア北部エミリア・ロマーニャ州で11世紀ごろから製造されてきた伝統的なお酢です。トレッビアーノ種の白ブドウの濃縮果汁を原料とし、木製の樽で発酵・熟成を行ないます。熟成期間が長くなればなるほど、高濃度で風味豊かになります。
原料は白ぶどうですが、濃縮と熟成によって濃い茶黒色をしていて、ぶどうの風味が強いのが特徴です。他の食酢にはない、まろやかな甘味があり、木樽由来の香りが華やかなのでドレッシング・ソースのほか、デザートにも使われています。糖質も高めです。
バルサミコ酢も酸度が高く、今回の試飲のものは6.0%でした。飲むお酢として水割り・炭酸割りにすると、薄まって濃厚さが失われるのがもったいないです。牛乳は相性良しです。
Q. 柑橘果汁は「酢」と違うものですか?
A. 柚子やすだち、橙などの柑橘果汁は、発酵させなくても果実由来の酸味を持っているので、酢の代用として用いられることがあります。とくに、四国や九州など柑橘類の生産が盛んな地域で、よく見られる傾向です。昔は「酸っぱいもの」全般を「酢」と呼んでいたという説もあります。
柑橘果汁に含まれているのは、主に「クエン酸」で、お酢に含まれているのは「酢酸」です。したがって、酸という特徴を活かす目的では代用できますが、風味という点では大きく異なり、違うものと考えるべきです。しかし、柑橘果汁も酢もどちらもそれぞれの良さがあるので、その個性を活かす使い方を模索することの方が重要です。酸の違いについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
世界各地の個性的なお酢
各国でそれぞれ特色のあるお酢が造られています。フィリピンをはじめ東南アジア諸国では、パイナップルビネガー、ココヤシ酒を原料とするココナッツビネガー、サトウキビから造るシュガーケーンビネガー。中東やアフリカで造られるナツメヤシ酒由来のデーツビネガー、西インド・スリランカの樹液から造るトディビネガー。
日本では手に入らない個性的なお酢もたくさんあります。それぞれの風味を活かした新しい食の組み合わせを見つけて、お酢の世界を楽しんでもらえれば嬉しいです。
【参考文献】
小泉武夫著『醬油・味噌・酢はすごい 三大発酵調味料と日本人』中公新書【ISBN:9784121024084】
河野友美著『酢で健康』保育社【ISBN:4586506903】
中野 貴之
酢醸造家/(株)とば屋酢店 第13代目
「お酢のことならなんでもご相談ください」がモットー。お客様に「また使いたいと思っていただけるお酢」をお届けできるよう社員と力を合わせて精進中。セミナー講師も時々お引き受けします。
関連記事
お酢が苦手なお父さんに伝えたい。お酢を上手に活用して毎日を元気に過ごそう
お酢や酸味のあるものが苦手な男性は意外に多いといわれています。逆に、女性の方が酸っぱいものが好きと...
毎日の献立にお悩みなら、調味料を変えてみて!いつものレシピでも印象はガラリと変わります
お料理の悩みの筆頭ともいえるのが、献立づくり。一食だけならまだしも、毎日料理をする方にとってはスト...